コラム

アベノミクス論争は無駄である

2016年07月07日(木)11時12分

論点2)アベノミクスは成功したのか

幅広い解釈に基づき、政権サイドの目的からすれば、就任後3年が経過しても、一定の支持率を保ち、選挙も勝ち続けてきたから成功と言えるだろう。政権維持という目的は達成されている。

論点3)アベノミクスで経済はよくなったのか

 これは選挙的には、次の論点になる。

論点3-1 民主党政権時と現在の安倍政権時では、どちらの方が経済の状態が良いか

 景気ということであれば、ここは解釈の余地なく、現在の方が良い。GDPの水準で見ても、雇用数で見ても、どの数字をとっても現在の方が景気は良い。

 長期的な経済状況という意味では、どちらも良くも悪くもない。長期的な日本経済の状態に変化はない。

 一方、金融政策や財政状況により、長期的なリスクが現在の方が高まっている。

 よって、短期的な景気はよくなったが、長期的なリスクは高まった、というのが公平な評価であろう。

論点3-2
 その結果は、アベノミクスによるものか。あるいは民主党の経済政策によるものか。

 どちらでもない。

 これが経済政策論争、アベノミクスが、今回の参議院選挙、前回の衆議院選挙で争点にならなかった理由である。今回の論戦もすべて無駄である。

 なぜなら、日本経済は、アベノミクスと無関係に回復しているからである。

 アベノミクスで経済は良くなったのか──関係ない。

 短期的な景気は安倍政権になってとてもよくなったが、それはアベノミクスによるものではなく、いかなる経済政策によるものでもない。

 日本経済は、自律的な景気循環および、世界的な景気回復により、景気がよくなったのである。

 したがって、現在の景気状況に基づいて、経済政策論争、これまでの経済政策の評価をすることは意味がない。

 現在の政策論争の論点を挙げてみよう。

論点A)民主党政権時の方が経済成長率が高い

 これは事実である。しかし、民主党の経済政策が良かったことを意味しない。リーマンショック後であるから、急激に落ち込んだ反動で景気が大きく回復したからである。増加率が大きいだけで、GDPの水準は低く、2010年から12年の方が経済状態が良かったというのは誤りである。経済政策が現在よりも良かったかどうかも分からない。状況が違いすぎて、客観的な比較は出来ない。意見は様々であろうが。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日続伸、1000円超高 AI関連株高が

ビジネス

伊藤園、飲料品の一部を来年3月から値上げ お~いお

ワールド

マクロン氏、中国主席と会談 地政学・貿易・環境で協

ビジネス

インド中銀、ルピー安容認へ=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story