最新記事
シリーズ日本再発見

タトゥーの人も入浴OKへ、温泉業界が変わる?

2016年10月31日(月)10時44分
高野智宏

Nicolas McComber-iStock.

<長らく「入れ墨・タトゥーお断り」としてきた日本の温浴施設だが、ファッションタトゥーや外国人観光客の増加で賛否両論が巻き起こっている。そもそも、どんな理由でいつからタトゥーNGなのか。そして、先行して条件付きOKに踏み切った施設の現状とは>

【シリーズ】日本再発見「日本ならではの『ルール』が変わる?」

 2013年秋、北海道のアイヌ民族会との文化交流のため来日していたニュージーランドの先住民族マオリの女性が、民族伝統の入れ墨にもかかわらず、それを理由に温泉施設での入浴を拒絶された"事件"があった。これをきっかけに議論が巻き起こったのが、日本の温浴施設における入れ墨・タトゥー拒否問題だ。

 2014年には、脳科学者の茂木健一郎氏がTwitterで「タトゥー、刺青は入浴お断り、という不当な差別をしている限り、日本の温泉の世界遺産登録は無理だね。」と糾弾し、賛否両論が巻き起こり炎上騒ぎとなった。

 また、今夏にも東京サマーランド(東京あきるの市)が、公式ブログで「イレズミを身体に入れる自由があるようにイレズミの方の入園をお断りする自由もある」、「イレズミのあるお父さんやお母さんと一緒に来たちびっ子は本当の気の毒」など、煽情的ともとれる文章を掲載(後に削除しブログ上で謝罪)して大きく報道されるなど、いまや温浴施設やプールにおける入れ墨・タトゥー可否問題は、国内世論を二分する大きな問題となっている。

 最近は若い世代を中心にファッションタトゥーを入れる人が増えてきたとはいえ、未だに入れ墨・タトゥーに対する抵抗感は根強く残る。そんな現状にあって、問題の舞台である温浴施設の対応とはいかなるものだろうか。

銭湯はOK、スーパー銭湯はNGの歴史的経緯

 昨年10月、観光庁が全国のホテルや旅館、約3800施設に対して実施したアンケートの結果(回答数約600施設)、入れ墨・タトゥーがある客の入浴について約56%の施設が拒否と回答。一方、拒否していない施設は約31%で、シールで隠す等の条件付きで許可している施設が約13%という結果となった。

 ちなみに、入れ墨やタトゥーの入った客を拒否している施設の多くは、日帰り温泉やスーパー銭湯といった"温泉施設"であり、町場の銭湯ではない。というのも、日帰り温泉等とは異なり町場の銭湯では、入れ墨・タトゥーを入れているからといって、入浴を断ることを法律で禁止されているからだ。

 これは、銭湯が自宅に内湯のない時代から存在する日常的な入浴の手段であり施設であるため。入浴し身体を清潔に保つことは万人に認められた行為であり、入れ墨・タトゥーを理由に入浴を断れば、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めた憲法25条の「生存権」に抵触する可能性がある。

 なお、公衆浴場法でも、営業者は伝染病患者を拒否しなければならない(第4条)、入浴者は浴槽内を著しく不潔にしてはならない(第5条)などと利用に関する規定を定めているが、入れ墨やタトゥーに関する条文は存在しない。

 では、なぜ日帰り温泉やスーパー銭湯といった施設だけが入れ墨・タトゥーを入れた客を拒否できるのか。また、それはいつ頃から当たり前のように行われるようになったのだろうか。

 これには「80年代中盤より登場しはじめ、90年代にブームとなったスーパー銭湯の影響が大きい」と指摘するのは、温浴振興協会代表理事の諸星敏博氏。暴力団対策法(暴対法)の締め付けもいまほど厳しくなかった当時、スーパー銭湯への来場者が増え、それに比例して反社会的な人物の来場も増えた。銭湯とは異なり、食事やアルコールも提供し滞在時間も長い温浴施設となれば、トラブルも多発したことだろう。「そうしたことから一般の利用者からのクレームが増えたり、利用そのものを敬遠する動きが出てきた。そうなると施設側も対応を検討せざるを得ない」

 加えて、「公衆浴場法などにおける分類の違いも大きな要因」と諸星氏。国による公衆浴場法や都道府県が定める公衆浴場条例では、銭湯が"一般公衆浴場"に分類される一方、日帰り温泉やスーパー銭湯などは"その他の公衆浴場"に分類される。

【参考記事】ニッポン名物の満員電車は「自然となくなります」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米・イスラエル首脳、7日会談へ ガザ・イラン情勢協

ビジネス

FRB議長、利下げ前に一段のデータ「待つ」姿勢を再

ワールド

中国、WTO改革で米と対話の用意 「途上国」特権見

ビジネス

米5月求人件数、37.4万件増 関税の先行き不透明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    未来の戦争に「アイアンマン」が参戦?両手から気流…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中