最新記事
シリーズ日本再発見

日本の映画館で『ワンピース』を英語・中国語字幕付きで上映する理由

2016年08月05日(金)11時28分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

© O/2016 OP

<日本語が分からない外国人に映画館で日本の映画を観てもらう――それが外国語字幕付き上映企画「YOKOSO! EIGAKAN!」の狙い。アニメ映画によるインバウンド重要の掘り起こしを目指す今までにない取り組みだ。特に家族連れの旅行客をターゲットにしているというが、その背景には、家族向けサービスが少ないという日本の"おもてなし"の弱点もあるようだ>

【シリーズ】日本再発見「日本のおもてなし施策最前線」

「留学生として日本で暮らしていますけど、映画館に来たのは今回が初めてです」

 そう目を輝かせながら話してくれたのは、若い中国人留学生の4人組だ。アニメ映画『ONE PIECE FILM GOLD』(東映配給)を見るため、新宿の大型シネコン「新宿バルト9」にやってきた。

 彼らを初めての映画鑑賞にいざなったのは、外国語字幕付き上映企画「YOKOSO! EIGAKAN!」だ。新宿以外にも品川、横浜、京都、大阪、福岡と、日本各地の6映画館で実施され(8月5日まで)、英語と中国語(簡体字)の字幕併記で日本語が分からない外国人に対応している。

 実際に映画館を取材したが、観客のほとんどが外国人だった。欧米、東南アジア、中国などさまざまな地域の人々が集まっているだけに、上映前の客席では英語や中国語などさまざまな言語が飛び交っていた。映画が始まっても、ガイコツ男「ブルック」の定番ギャグに客席全体が爆笑に包まれるなど、日本人とは違うノリの良さを感じる。まるで外国の映画館にやってきたかのようだ。

【参考記事】ワンピース、キャプ翼、テトリス、辞書まで映画化!? 中国第3のバブルの実態

「YOKOSO! EIGAKAN!」は、シネコン・チェーンを運営する東映グループのティ・ジョイが主催する企画だ。2015年5月の『ドラゴンボールZ 復活の「F」』(東映配給)からスタート。同年10月の『心が叫びたがってるんだ。』(アニプレックス配給)、翌年1月の『ガラスの花と壊す世界』(ポニーキャニオン配給)と日本のアニメ映画を外国語字幕付きで上映し、今回で第4弾となる。

 人口減少時代を迎えた日本において外国人需要をとりこむ狙いがあるが、それに加えてより大きな「志」があると、ティ・ジョイの担当者である影山美央さんは語る。「いわゆる"おもてなし"として、外国人に日本の文化を体験してもらうこと、そして家族連れの観光客が楽しめるサービスを提供することが狙いです」

映画館でのグッズ販売も日本ならではの体験

「爆買い」が新語・流行語大賞を受賞したのは2015年末だが、今年に入って早くも状況は変化している。訪日外国人数は2016年上半期に過去最高を記録するなど絶好調(前年同期比28.2%増の1171万4000人、日本政府観光局訪日外国人観光客統計2016年6月推計値より)。一方で、百貨店免税品販売額は今年4月にマイナス9.3%を記録、3年3カ月ぶりに前年実績を下回った。その後も低調に推移し、6月には前年同月比20.4%のマイナスにまで落ち込んでいる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏インフレは当面2%程度、金利は景気次第=ポ

ビジネス

ECB、動向次第で利下げや利上げに踏み切る=オース

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中