コラム

ハマスが歓迎し、イスラエルは拒否...バイデン政権「ガザ停戦案」で疑われるのは

2024年06月04日(火)12時25分

バイデンの停戦案に関しては、イギリスをはじめヨーロッパ各国、オーストラリア、国連、などのほか、サウジアラビアなどアラブ各国も支持を表明している。

とすると、バイデンの確約とは裏腹に、ほぼイスラエルだけが同盟国アメリカの停戦案にNOをいったことになる。

イスラエル政府がバイデンの停戦案を拒否したのは、その内容が「パレスチナ寄り」であることからすれば当然ともいえる。

ただし、これに加えて、ネタニヤフが「この停戦案はバイデンの本心ではない」と考えている公算も無視できない。

つまり、ネタニヤフ政権が「バイデン政権はイスラエルが拒否することを織り込み済みで、形式的にパレスチナ寄りの停戦案を提案しただけ」と考えたとすれば、その強気の態度も不思議ではない。

バイデンの本心はどこに

実際、イスラエル政府がそのように考えても無理のない状況はある。

第一に、バイデンは今年11月の大統領選挙を前に逆風にさらされている。アメリカ国内でもイスラエルに対する軍事協力への批判が高まっており、とりわけ2020年大統領選挙でバイデンの支持基盤になったリベラル派、若者、マイノリティからの拒絶反応は強い。

そのためバイデンには、たとえ格好だけでも、ガザ侵攻を止めるための努力をアピールする必要があることは間違いない。

第二に、バイデン政権は停戦案を打ち出す直前まで、イスラエルの軍事行動を容認し続ける態度を保っていた。

例えば5月29日、ホワイトハウスのカービー報道官はガザ南部のラファで数多くの民間人が犠牲になった事件を問われて、「アメリカ政府はラファでの軍事活動を支持していない」と断った上で「イスラエルはレッドラインを超えていない」と擁護する姿勢を崩さなかった。

ガザの他の地域から多くの避難民が押し寄せている南部ラファへの攻撃は、踏み越えてはならない一線 “レッドライン” とみなされてきた。

また、5月20日には国際刑事裁判所(ICC)がネタニヤフに逮捕状を請求したことに関してバイデンが「言語道断」と非難した。

そして最後に、バイデン政権は昨年10月以来、125億ドル以上の軍事援助をイスラエルに提供しているが、イスラエルが停戦案を拒否した場合には援助を停止するといった「脅し」を事前に何も告知していなかった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ

ビジネス

テスラ自動車販売台数、4月も仏・デンマークで大幅減

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

LSEG、第1四半期収益は予想上回る 市場部門が好
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story