コラム

ハマスが歓迎し、イスラエルは拒否...バイデン政権「ガザ停戦案」で疑われるのは

2024年06月04日(火)12時25分
バイデン

バイデン大統領(2月13日、ワシントンDC) Jonah Elkowitz-Shutterstock

<5月31日に米政府が発表した「ガザ停戦案」。バイデンは「イスラエル政府も合意」としたが、ネタニヤフ首相は受け入れない様子。イスラエルが強気の姿勢を崩さない理由とは──>


・アメリカ政府は「イスラエル軍の撤退」を含むガザ停戦案を発表し、パレスチナを含む国際的に高い評価を得た。

・これに対して、イスラエル政府は事実上、停戦案を拒否する姿勢をみせている。

・イスラエルが強気の態度を崩さない一因は、停戦案に関する「アメリカの本気度」が疑わしいことにあるとみられる。

ハマスが歓迎したアメリカの提案

バイデン政権は5月31日、ともに調整役を務めるカタール、エジプトとともにガザ停戦案の内容を明らかにした。段階的に実施される主な内容は以下の通り。

第1段階

・戦闘の全面的停止(6週間)
・ガザの人口集中地域からイスラエル軍撤退
・ガザへの人道支援物資搬入
・イスラエルが拘束しているパレスチナ人数百人とハマスが拘束した人質のうち女性、高齢者、負傷者の相互解放

第2段階

・ガザの全ての領域からイスラエル軍撤退
・ハマスが拘束した人質のうちすべての生存者(男性兵士を含む)を釈放

第3段階

・ハマスが拘束した人質のうち故人の遺体の引き渡し
・ガザの学校、病院、家屋などの復旧支援

バイデンはこの停戦案にイスラエル政府も合意していると強調し、ハマスに受け入れを求めた。

これに対して、ハマスはバイデンの提案がイスラエル軍の撤退を含む「恒久的な和平」につながると歓迎する意向を示した。

「イスラエル撤退」をともなう停戦案

今回の停戦案の最大の特徴は「イスラエル軍撤退」にまで踏み込んでいることだ。

アメリカがそこまで求めるのは、今までになかったことだ。

昨年10月にイスラエル・ハマス戦争が始まると、アメリカはそれまでの経緯から「イスラエルの自衛権」を最大限に擁護したが、犠牲者が増えるにつれ「即時停戦」をしばしば求めてきた。

例えば南部ラファ攻撃が秒読みに入っていた今年2月にも、アメリカはカタール、エジプトとともに停戦協議を斡旋した。しかし、この際にはイスラエルが求めてきた「人質解放」などが優先され、結局物別れに終わった。

明らかにイスラエル寄りだった2月の停戦案と比べると、今回の内容はガザ侵攻に対する国際的な批判をより反映したものといえる。

だからこそ、ハマスを含むパレスチナでも歓迎のトーンが強い。例えばパレスチナ自治政府報道官を務めた経歴をもつ政治アナリスト、ヌール・オーデ氏は、「アメリカ政府が示したかつてない提案内容」と高く評価している。

「ハマス壊滅まで戦闘は続く」

ところが、イスラエルのネタニヤフ首相はアメリカ政府の発表があった翌6月1日、「戦争終結の条件は何も変わっていない」と述べた。

従来ネタニヤフは「ハマス壊滅まで戦闘は続く」と強調してきた。

この方針に変更がないとは、つまり「バイデンの停戦案を受け入れない」となる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用

ワールド

ダライ・ラマ、「一介の仏教僧」として使命に注力 9

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story