コラム

TVに映るウクライナ避難民はなぜ白人だけか──戦争の陰にある人種差別

2022年04月19日(火)17時30分

しかし、それでもやはり差別的な対応はなくなっていない。4月初旬、ポーランドに逃れたコートジボワール人男性はリビウの駅で国際列車に乗るための行列にいたところ、兵士から「ここはサルのくる場所じゃない」と罵られたという。

ウクライナ人ファーストの闇

ウクライナからの避難民の多くは、隣接するポーランドなどのEU加盟国に逃れている。一般市民の間では、ウクライナから逃れてきた避難民を人種に関係なく支援する動きも少なくない。また、EUはウクライナ避難民をその国籍にかかわらず自動的に保護することに合意している。

しかし、実際にはEU加盟国の公的機関が差別的な対応をとることも珍しくない。

例えばポーランドでは、白人のウクライナ人はほぼ無条件に受け入れられる一方、それ以外の人々に関してはウクライナに合法的に滞在していたことや、安全上の理由などで自国に帰還できないことを証明しなければならず、手続きに時間がかかる。その結果、国境付近に数多くの有色人種の避難民が滞留する事態となっている。

ポーランドになんとか入国できたコンゴ人女性は仏ル・モンドに、国境での検査で警官が黒人に対してだけ銃を突きつけて検問をしたと証言した。また、宿泊施設なども白人に優先的に割り当てられており、ウクライナで医学を学んでいたケニア人留学生は「彼らはウクライナ人ファーストだ」と米Voxに語っている。

ポーランドの国連大使はこうした報道が不正確だと反論しているが、批判は各所からあがっている。ケニアの国連大使が「人種差別を強く非難する。それはこうした非常時における連帯を損なうものだ」と力説した他、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「差別、暴力、人種主義」を強く非難している。

ポーランド以外にも、ハンガリーやブルガリアなど東欧のEU加盟国では多かれ少なかれ似たような報告があがっている。

「ウクライナ人はあいつらとは違う」

非常時には平時以上にマイノリティへの排他的感情が剥き出しになりやすい。コロナ禍をきっかけに欧米でアジア系ヘイトが広がり、同じく中国でアフリカ系への差別が噴出したことは記憶に新しい。

ヨーロッパの場合、2015年からのシリア難民危機が反移民感情をそれまでになく高め、なかでもポーランドやハンガリーなどでは白人至上主義者が議会や政府の中核を占めている。ウクライナ避難民に対する差別的な対応は、これを背景としている。

ブルガリアのペトコフ首相はウクライナ避難民を指して「彼らはこれまでの連中とは違う。彼らはヨーロッパ人で、知的で、教育がある。これまでのような、出自も過去もはっきりせず、テロリストでさえあるかもしれない者たちとは違う」と述べている。この露骨なまでの差別的発言は、これら各国の風潮を象徴する。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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