コラム

なぜいま中国向けODAを終了したか──日本政府にとっての一石二鳥

2018年10月29日(月)16時00分

この背景のもと、それまで対中ODAの中心だった、鉄道建設や港湾整備などの大規模プロジェクトをローンを組んで行う「有償資金協力(円借款)」が2000年をピークに急激に減少し、2008年を最後に終了した。

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その後、日本の対中ODAは、職業訓練など、相手に返済義務はないが一件あたりの金額がより小規模の無償援助のみ行われてきた。

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しかし、それも2015年段階で1億5144万ドル(約150億円)と、現在の中国からみて必ずしも大きな金額ではない。

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さらに、中国は過去の円借款の返済を続けているため、2008年以降は日本から中国に渡る金額より、その逆の方がはるかに多くなっている。

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したがって、対中ODAの終了は、中国にとってほぼ全くダメージがない。

なぜこのタイミングか

それでは、なぜ日本政府は対中ODAを終了させたのか。

ここにきて日中関係は、少なくとも政府レベルでは改善しつつある。2017年12月に日本政府が中国政府の推し進める「一帯一路」構想に部分的ながら協力する方針を打ち出したことは、その象徴だ。
 
なぜ、このタイミングなのか。逆にいえば、なぜ今まで続けてきたのか。
 
ここで重要なことは、これまでの対中ODAには、世論レベルで悪化し続ける両国の関係をかろうじてつなぎ止める役割があったことだ。

日本の対中感情が悪化し始めた1990年代の末には既に、自民党のなかで対中ODA見直しの要求が出始めていた。そのなかには、当時まだ中堅議員だった安倍晋三氏もいた。
 
しかし、これと並行して、両国の経済関係は深化し続けた。2000年当時、日本の中国(香港を除く)への輸出額は約303億ドル、輸入額は551億ドルだったが、2010年にはそれぞれ1496億ドル、1533億ドルにまで成長し、中国は最大の貿易相手国となった(IMF, Direction of Trade Statistics)。
 
この背景のもと、両国でお互いへの反感が募ったとしても、日本政府には中国政府との外交関係を維持する必要があり、ODAは文化交流などとともに、その数少ない手段となっていた。
 
その裏返しで、日中関係が改善しつつあるいま対中ODAを終了させることは、「もはやODAがなくても中国とのパイプに心配はいらない」という日本政府の自信を示す。言い換えると、「少なくとも政府レベルでの両国関係が最悪期を脱した」と判断したからこそ、日本政府は対中ODAを終了できたといえる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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