コラム

『韓国大衆音楽賞』の受賞作やノミネート作を通して知る、隣国のポップミュージックの多様性

2026年03月29日(日)10時00分

RMのコメントが追い風になったハンロロ

音の良しあしだけで選ぶというと、難解なものが好まれそうなイメージを持ってしまうが、女性シンガーソングライターのハンロロを「今年のミュージシャン」にするあたりにKMAの良心を感じる。彼女は、自身のフェイバリットアーティストに挙げているカネコアヤノにも似た、日々の生活で感じたことをナチュラルに綴った歌詞で個性を発揮。その作風がK-POPアーティストたちの間でも話題を集め、RM(BTS)のコメントが追い風となった。

今回セレクトした「0+0」を聴けば、穏やかでポジティブな歌声と雰囲気に流されないしっかりとしたサウンドメイクも評価されるポイントであったのがわかるだろう。


「0+0」は2025年8月にリリースされたハンロロのサードアルバムの収録曲 한로로 HANRORO / YouTube


天真らんまんな「今年の新人」

「今回のアルバムで私はよく笑いながら死について語ります。私の人生は死への衝動と恥ずかしさで汚れているからです。しかしみなさん、恥ずかしさは私たちの身体がおかしくなるほど生きている証拠です」

これは「今年の新人」を手に入れたウ・ヒジュンが、25年にリリースしたアルバムに添えた文章の一部である。彼女は生きていく過程で生まれるさまざまな感情を、ときにぶっきらぼうに、ときに繊細に歌う。その天真らんまんな姿は、ブラジル音楽界のレジェンド、エリス・レジーナを思わせる。しかしながら、バックに流れるのはボサノヴァでもサンバでもなく、アヴァンギャルドな香りがするポップスというのが面白い。今後どのようなスタイルへ向かっていくのか、そんな周囲の期待が受賞につながったようだ。


2025年4月にアルバムを発表してデビューしたウ・ヒジュンは7月と11月にもアルバムをリリースするなど活発に活動し、インディーズシーンで注目を集めた 우희준(huijun woo) / YouTube


K-POP番長まつもとのイチオシは?

惜しくも受賞は逃したものの、個人的に25年のベストワンに挙げたアーティスト、チュ・ヘリンを最後に紹介したい。昨年もノミネート止まりだったが、今回も「最優秀ポップ - アルバム」部門にアルバム『stereo』が、「最優秀R&B・ソウル - 歌」に同作のリードトラック「Busy Boy」が入っただけで終わってしまった。

渋谷系やシティポップといった日本発のジャンルの断片をつなぎ合わせ、エレクトロニカでコーティングしたようなサウンドは、韓国のインディーズシーンでは聴ける機会があまりない。候補になっただけでもありがたく思うものの、次回は何かしらの賞を獲得してほしい。


チュ・ヘリンはアルバム『「Re-Make」 : Band Sessions』でセルフカバー曲を発表するなど、2025年も活発な活動を見せた 주혜린 Hyelyn Joo / YouTube


以上のように5作品だけをチェックしても、KMAの選考基準が他の賞とは異なるのがよく理解できると思う。他の部門については、KMAの公式ホームページ(※1)や、韓国インディーズの情報が詰まった日本語のサイト・BUZZY ROOTS(※2)に詳しく掲載されているので、気になった方はチェックを。お気に入りの1曲が見つかることを期待している。

※1 https://koreanmusicawards.com/
※2 https://buzzyroots.com/news-article/korean-music-awards-2026-winners/

プロフィール

まつもとたくお

音楽ライター。ニックネームはK-POP番長。2000年に執筆活動を始め、数々の専門誌・ウェブメディアに寄稿。2012年にはK-POP専門レーベル〈バンチョーレコード〉を立ち上げ、イ・ハンチョルやソヒといった実力派を紹介した。現在は『韓流ぴあ』『ジャズ批評』『ハングルッ! ナビ』などで連載。LOVE FMLuckyFM楽天ポッドキャストの番組に出演中。著書は『K-POPはいつも壁をのりこえてきたし、名曲がわたしたちに力をくれた』(イースト・プレス)ほか。

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