コラム

『韓国大衆音楽賞』の受賞作やノミネート作を通して知る、隣国のポップミュージックの多様性

2026年03月29日(日)10時00分
『韓国大衆音楽賞(KMA)』で「今年のアルバム」を受賞したチュダヘチャジス

『韓国大衆音楽賞(KMA)』で「今年のアルバム」を受賞したチュダヘチャジス  CHUDAHYE CHAGIS / YouTube

<「音楽を通して生まれた国を再認識する」──そんな傾向が2025年の韓国音楽に見え始めた>

売れている音楽が必ずしも良いとは限らない。たとえセールス的にぱっとしなくても、素晴らしいと思える音楽をちゃんと評価したい──。そんな視点で自国のサウンドにスポットライトを当てる恒例の『韓国大衆音楽賞(KMA)』が2月下旬、第23回の受賞作を発表した。この授賞式は2004年から年に一度のペースで開催。業界人(記者、編集者、音楽評論家など)が選考を務め、メジャーだけでなくインディーズも含めた20を超える部門を審査し賞を贈呈していく。

ノミネートされた作品はK-POPをはじめ、ロック、ジャズ、フォーク、ヒップホップ、エレクトロニカなど多種多彩だ。その中から「今年のアルバム」「今年の歌」「今年のミュージシャン」「今年の新人」の〈総合部門〉と、ジャンル別の賞などを決めていくのだが、海外に住むリスナーにとっては新鮮に響く音ばかり。とはいえ、ひとつひとつをチェックしていくにはスペースが足りないため、今回は〈総合部門〉で選ばれた4作品をメインに紹介したい。

生まれた国を再認識する音楽

「今年のアルバム」に選ばれたのは4ピースバンド、チュダヘチャジスの『少数民族』。これはなかなかの衝撃作だ。韓国のシャーマニズムを伝える"巫歌"を軸に、ファンク、ダブ、レゲエ、グランジなどをごちゃ混ぜにしたサウンドが最初から最後まで吹き荒れる。この手の音楽はコンセプトが先行して実際は面白くないケースが多いものの、彼らの演奏はアイデアが豊富で聴き手を飽きさせない。わき出る感情に素直に向き合うような歌も心地よい。

最近カムバックしたBTSがニューアルバム『ARIRANG』で自分たちの立ち位置やルーツを見つめ直しているが、このように"音楽を通して生まれた国を再認識する"傾向は、今後さらに強まっていくような気がする。


チュダヘチャジスの『少数民族』のリード曲「ホッセ」 CHUDAHYE CHAGIS / YouTube


ポップな音と奥深い歌詞でK-POPを代表するソングライター

「今年の歌」は兄妹デュオ・AKMU(アンミュ)のメンバー、イ・チャンヒョクのソロ曲「絶滅危機の愛」が獲得した。選定委員のチョ・へリム氏によると「人間の不完全な愛をより叙情的に表現した楽曲で、喪失と連帯のメッセージを濃厚に盛り込んだ天才的な作品」とのこと。

個人的に評価したいと思うのは、この世が堕落していくのを嘆きつつもギリギリで食い止めようとする主人公と、やけに明るいファンク/ディスコ系サウンドの組み合わせの妙だろうか。ポップな音作りと奥深い歌詞を作り続けてヒットチャートの常連になった彼は、間違いなく現在のK-POPシーンを代表するソングライターのひとりだ。


イ・チャンヒョク「絶滅危機の愛」 AKMU / YouTube

プロフィール

まつもとたくお

音楽ライター。ニックネームはK-POP番長。2000年に執筆活動を始め、数々の専門誌・ウェブメディアに寄稿。2012年にはK-POP専門レーベル〈バンチョーレコード〉を立ち上げ、イ・ハンチョルやソヒといった実力派を紹介した。現在は『韓流ぴあ』『ジャズ批評』『ハングルッ! ナビ』などで連載。LOVE FMLuckyFM楽天ポッドキャストの番組に出演中。著書は『K-POPはいつも壁をのりこえてきたし、名曲がわたしたちに力をくれた』(イースト・プレス)ほか。

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