コラム

慰安婦問題に迫る映画『主戦場』 英エセックス大学の上映会でデザキ監督が語ったことは

2019年11月22日(金)18時00分

Kobayashi191122_3.jpg

エセックス大学で話すデザキ監督(筆者撮影)


日本人にとっては、つらい過去を指摘されるような、慰安婦問題。これを取り上げた映画を多くの日本人が映画館に列を作るほど見たがっていることに、筆者は驚いた。何らかの回答を得たい、という気持ちが強いのだろうか。

まだまだ決着していない、戦後の大きな問題であることは、確かだ。

エセックス大学で、上映会

『主戦場』は、今秋、欧州各国で上映会が開催されており、デザキ監督も映画と一緒に各国を回っている。

11月6日はウィーン、その後は英国、フランス、ノルウェー、ドイツ、イタリア、スイス、スウェーデンなど、12月上旬まで上映ツアーが続く。

筆者は、11月11日、英南部エセックス大学での上映会に行ってみた。

講義型の教室には数十人の観客がいた。大学ということで、学生・院生が多いが筆者を含む中高齢者の姿もあった。

映画を映し出す役目は監督自身である。

夏に見た時に見落としていた個所が、よみがえる。「当時は、女性はモノとして見られていた」という元日本兵の素朴な物言いが心に残る。

さまざまなことが筆者の頭を駆け巡った。

慰安婦たちが日韓の政治的な道具にされたことへの怒り、女性たちの境遇への思い、女性として、たった一人でも意に反する状態に置かれた女性がいたことの衝撃、そのような行為をしながらも日々戦い続けた兵士たち、そして今もなお、レイプや性的虐待が敵を攻撃する手段として使われていること(ボスニア戦争、ルワンダ内戦、ナイジェリアのボコ・ハラムによる少女たちの拉致など無数にある)などだ。日韓のみで起こったことではなく、第2次大戦のときだけでもない。今現在、形を変えながら発生していることなのだ。

映画は、最初と最後の方に元慰安婦の映像を入れた。最初の映像は役人に怒りをぶちまける元慰安婦の姿。最後の方はつらさ、悲しみを語る元慰安婦のアーカイブ映像だ。

作品は保守系・歴史修正主義的な人々の言論とリベラル系学者の見方を「両論併記」的に対比させているが、最終的には、慰安婦問題に対する日本側の責任を問う姿勢が出ていたと筆者は思う。この慰安婦たちのつらさ・痛み・苦しみに対し、日本側はどう対処するのか、という問いである。これは筆者が日本人だからそう思ったのかもしれないが。見る人によって、様々なメッセージを受け取る映画なのだろう。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E

ビジネス

米国株式市場=ダウ終値で初の4万ドル台、利下げ観測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story