コラム

都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐藤沙織里とは何者か?

2025年06月24日(火)13時45分

ユーチューバーが組織に勝った理由

とはいえ、これだけでは佐藤氏がなぜ知事の威光も組織票も閨閥も跳ね返す勝利を掴めたのか、十分な説明になるとは言い難いようにも思える。千代田区と言えば、自民党と都民ファーストの牙城だ。その千代田区で、組織も準備期間もないに等しかった1人のユーチューバーが勝利したのはなぜか。

おそらく背景には、千代田区固有の事情がある。2024年1月に一般競争入札における価格情報等を漏洩したとして、区議会の実力者と区の担当部長が逮捕された。区立お茶の水小学校・幼稚園の改築工事をめぐる官製談合防止法違反事件だ。千代田区は首都東京の中心であると同時に、意外なほどに人情に厚い下町気質が残る土地でもある。政治の腐敗、既得権益層の堕落に嫌気がさしていた層が今回は清新な若手候補に票を投ずる――。これは2024年4月の衆院東京15区補選でも見られたのと同じ構図だろう。

15区補選では立憲民主党の酒井菜摘氏が当選したが、共産党は共闘にまわり候補者を立てなかった。今回の都議選千代田区では共産党のベテラン元区議・木村正明氏が出馬し(2093票)、立民は候補を立てなかった。批判票の受け皿となる「清新な若手候補」はおのずと佐藤沙織里氏に絞られていた。

今回の都議選での佐藤氏勝利は、そうした政治刷新を求める客観的土壌の上に、2024年6月の都知事選における石丸伸二陣営や2024年11月の兵庫県知事選での斎藤元彦陣営で「開花」した「SNS選挙戦略」と、佐藤氏自身とそのファン層が作り出してきた「モメンタム」が奇跡的に絡み合って結実したのだろう。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

物価目標の実現「着実に近づいている」、賃金上昇と価

ワールド

拙速な財政再建はかえって財政の持続可能性損なう=高

ビジネス

トヨタの11月世界販売2.2%減、11カ月ぶり前年

ビジネス

予算案規模、名目GDP比ほぼ変化なし 公債依存度低
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story