コラム

アメリカは同盟国の「潜在的な敵」となった...イラン戦争が停戦までにもたらしたものとは

2026年04月09日(木)16時30分

戦争が残した最大の禍根はイランの核開発への執着だ

戦争が残した最大の禍根は核開発への執着だ。米・イスラエル両軍の猛攻にイランは「体制存続のためには核兵器こそが唯一の手段」という教訓を改めて胸に刻んだ。湾岸諸国は危険なイランを残したまま地域から関心を失いつつある米国に対し、深い不信感を抱いている。

英紙フィナンシャル・タイムズの外交首席コメンテイター、ギデオン・ラックマン氏は4月8日付コラムで「停戦発表は世界を破滅的な『ハルマゲドン』の淵から辛うじて引き戻した。イラン文明破壊と世界のエネルギー供給網切断という最悪のシナリオは一時、猶予を得た」と書く。


しかし停戦が永続的和平への道筋となるか、次なる激突までの充電期間に過ぎないのかは依然として不透明だという。双方が戦闘停止を望む背景には米経済と政治基盤へのダメージを回避したいトランプ氏と軍事施設のこれ以上の損失を食い止める必要があるイランの国内事情がある。

イラン、イスラエル双方に攻撃を止めるインセンティブは働かない

交渉最大の争点はホルムズ海峡の管理権だ。イランは通行料徴収という「実質支配」を狙うが、米国やその同盟国がイランに地政学的レバレッジを容認するはずがない。平和構築は破壊よりもはるかに困難な作業であることを現在の情勢は示唆しているとラックマン氏は強調する。

米ジョージタウン大学教授で米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)プログラムディレクター、ダニエル・バイマン氏も4月8日付の解説で、極めて脆弱な今回の停戦について「平和への定着か、あるいは再戦への猶予期間かに過ぎないのか」と論じている。

今後の情勢を占う上で重要な6つの論点として、バイマン氏は(1)単なる停戦か、最終的解決か(2)核開発問題の不透明性(3)拡大するレバノン紛争(4)テロと報復の連鎖(5)米国と同盟国の亀裂(6)「戦争後の戦争」の持続――を挙げる。

イスラエルはレバノンで対イスラム教シーア派組織ヒズボラ作戦を継続する。レバノンの国家機能がさらに空洞化すれば地域全体の不安定化を助長する。イランは国内の不満を逸らすために、イスラエルはイランの再軍備を阻止するために攻撃を止めるインセンティブは働かない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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