コラム

リオ五輪、英国のメダルラッシュが炙りだしたエリートスポーツの光と影

2016年08月17日(水)15時00分

David Gray-REUTERS

<イギリスのエリートスポーツはEU離脱決定後の沈滞ムードを吹き飛ばしたが、草の根スポーツの育成をおろそかにしたままでは所詮、持続不可能だ> (写真はイギリスのスポーツエリートの1人、アダム・ピーティ。リオ五輪の男子100メートル平泳ぎで世界新記録を出し金メダルを獲得した)

 リオデジャネイロ五輪で熱戦が繰り広げられている。体操団体総合と男子個人総合で2冠を達成した内村航平選手をはじめ、柔道、競泳陣を中心とした活躍で、2020年に東京五輪を控える日本は金7個、銀4個、銅15個の計26個というメダルラッシュに沸いている(8月15日時点、BBC集計)。

japanmedal.jpg

 同じ島国で、日本より人口も国内総生産(GDP)も少ない英国はもっとすごい。金15個、銀16個、銅7個の計38個で、瞬間風速ながら中国の金15個、銀13個、銅17個の計45個を抜いて2位。総メダル数では中国に及ばないものの、金メダルは同数、銀メダルで3個も上回った。

britainmedal.jpg

【参考記事】映画《東京オリンピック》は何を「記録」したか

 欧州連合(EU)をめぐる6月23日の国民投票で離脱を選択してから英国では何も決めることができず、すべてが先送りになっている。重苦しい停滞感の中で、英国選手の活躍は一服の清涼剤になる。成功の秘訣は12年ロンドン五輪のレガシー(遺産)と、英国流スポーツマネージメントにある。

chinamedal.jpg

 英国の五輪・パラリンピック選手はメダルを取ってナンボの世界だ。日本では「お国のため」という意識がまだ強いのかもしれないが、英国では成果主義が徹底している。成績を残すことができなければ、容赦なく助成金を削られる。競技団体も目標のメダル数に届かなければ予算カットの憂き目に合う。

メダル量産の原資に宝くじ

 選択と集中。目標設定、助成額の決定、評価を担当するのが文化・メディア・スポーツ省所管の公的機関「UKスポーツ」だ。エリートスポーツの育成・強化支援、国際大会の誘致支援などを主な業務にしている。

 英国は1996年のアトランタ五輪で金1個、銀8個、銅6個の計15個で36位に沈んだ苦い経験がある。それまで五輪強化費は年間わずか500万ポンド。エリートスポーツのために税金を投入すると言っても、なかなか納税者の理解は得られない。当時のジョン・メージャー首相は知恵を絞った。「国営宝くじの収益を使おう」。そして翌97年にUKスポーツが設置された。

【参考記事】ロンドンより面白い!映画で見るオリンピック

 UKスポーツの2013~17年予算内訳は、国営宝くじ収益3億5千万ポンド(全体の約68%)、国庫1億6千万ポンド、その他200万ポンド。その中から、英国が得意とするボート競技に3262万ポンド、自転車に3026万ポンドを助成するなど、リオ五輪・パラリンピックの強化に総額3億4725万ポンド(約450億円)を投じている。

 競泳男子100メートルで平泳ぎで57秒13の世界新記録をマークして金メダルを獲得したアダム・ピーティ選手(21)もUKスポーツから支援を受ける。14歳のとき国内大会に遠征する金がなく、友人や近所の人がパーティーを開いて資金を集めてくれたのが、トップアスリートへの第一歩だった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、ウクライナ戦争に追加派兵か 7月か8月にも

ワールド

ガザで21人死亡、学校など空爆 調停国が停戦交渉呼

ワールド

トランプ氏、26年度国防予算でドローンとミサイル増

ビジネス

H&M、3─5月売上高が予想以上に減少 「消費者は
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 5
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 6
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 8
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story