コラム

政府による物価対策の給付金は「高齢者優遇」で不公平──批判は正しいのか?

2023年04月12日(水)18時57分
岸田文雄首相

YOSHIKAZU TSUNOーPOOLーREUTERS

<資産家で生活に余裕がある年金生活者も給付対象になっているとの批判もあるが、背景には適切な線引きを不可能にしている根本的な問題がある>

岸田政権が大規模な追加物価対策を決定した。主な支出は住民税非課税世帯への3万円の給付と、子供のいる低所得世帯に対する5万円の給付である。

一連の給付に対しては選挙対策のバラまきとの批判が出る一方で、低所得層だけでなく中間層にも給付が欲しいといった声も聞かれる。また、住民税非課税世帯で支給対象者を線引きすると、資産のある年金生活者にも給付が行われてしまうなど、不公平が生じやすいとの指摘もある。

政府は2023年3月28日の閣議で、物価対策を目的に22年度の予備費から総額2兆2226億円の支出を決めた。地方自治体向けの「地方創生臨時交付金」を1兆2000億円増額し、このうち5000億円を低所得世帯への3万円の支給に充当する。

ちなみに、地方交付税交付金は自治体の裁量に委ねられる予算であり、最終的な使途は自治体の裁量で決められる。一方、1551億円については、所得が低い子育て世帯に対する5万円の給付に充てる。

永田町では、早ければ5月の広島サミット後に解散が行われるのではないかとの声が飛び交っており、政界は完全に選挙モードに入っている。4月に入って多くの品目で値上げが行われており、何らかの対策が必要ではあるものの、現金給付になったのは、やはり選挙対策ということだろう。

現役世代が冷遇される不公平な給付?

加えて、一連の施策は高齢者を優遇しすぎていると批判する声も出ており、問題をさらにややこしくしている。

今回、給付対象となるのは住民税が非課税となる世帯であり、一般的に住民税非課税世帯は生活が苦しいと認識されている。その認識は正しいかもしれないが、住民税はあくまで所得に対する課税であって資産額は問われない。

つまり、資産を持つ年金生活者も給付対象となるため、現役世代と比較して不公平ではないかとの指摘が出ているのだ。

確かに、一定の資産を保有しているにもかかわらず、年収ベースでは年金しかないという高齢者は一定数存在しており、現状の枠組みではこうした人にも給付が行われることになる。ただ、マクロ的に見た場合、収入と資産は比例するものであり、相当な資産を持っているのに年収はごくわずかという高齢者は少ない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story