コラム

コロナで変わったドル円相場の新ルールとは?

2021年01月15日(金)12時25分

afsezen-iStock.

<通常、アメリカで株高になると円安・ドル高になるが、このところは米国株高でも円高傾向。なぜそうなっているのか。これからの為替相場はどう動くか>

(※1月5日発売の本誌「2021年に始める 投資超入門」特集より。編集部注:一部の情報は2020年12月末時点のものです)

コロナ危機発生以降のドル円相場は、緩やかな円高が続いてきた。2019年の年末には1ドル=109円を挟んだ値動きが中心だったが、コロナをきっかけに徐々に下落し、2020年の12月には103円台に突入した。
20210112issue_cover200.jpg
為替相場を見る際は、長期的視点と短期的視点を使い分ける必要があるが、短期的にはアメリカで株高が進んでリスクオンと呼ばれる状況になるとドルが買われ、逆に米国株が軟調な展開になると円高が進むというのが、ここ数年のパターンだった。だがコロナ以降は、必ずしもこのメカニズムが働かなくなっている。

米大統領選でジョー・バイデン氏が勝利し、大型景気対策への期待感から日米の株価は大きく値を上げているが、為替はあまり反応していない。つまりリスクオンでも円高が継続しているわけだが、この背景には、コロナをきっかけにした国際的な資金フローの変化があると考えられる。

日本の各企業はコロナ危機によってサプライチェーンの縮小を余儀なくされており、それに伴って諸外国に対する直接投資も一時的に縮小している。また手元資金を確保する必要性から、本来なら現地法人が保有するべきキャッシュを国内に還流させた可能性もある。これらは全て円高要因になるので、アメリカの株価が上昇しても円安が進まないことを説明する材料となる。仮にこうした実需要因で円高にならないのなら、コロナ危機が一段落すれば再びリスクオン=円安という流れが復活する可能性は十分あるだろう。

だが長期的な視点で眺めると、必ずしもそうは言えなくなる。長いスパンで為替を決定する最大にして唯一の要因は両国のインフレ率の違いだ。

 magSR210115_KayaChart1.jpg

本誌2021年1月12日号33ページより

円安・円高要因が拮抗

アメリカはバイデン政権の誕生で財政赤字の拡大が確実視されており、ドルの価値がさらに毀損する可能性が指摘される。アメリカで財政出動による景気拡大と財政悪化が続いた場合、インフレ率は上昇し、それに伴ってドルはさらに下落することになる。

もっとも、足元では需要が低迷していることから、2020年10月時点の米消費者物価指数(季節調整済み)は前月比で横ばいと物価には下押し圧力がかかっている。ITなど一部業種の高成長とコロナ危機による消費活動の縮小の両方から影響を受けるので、一気にインフレが進むというシナリオも描きにくいだろう。

transaction_accounts_superbanner.jpg

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

デンマーク、15歳未満のソーシャルメディア利用禁止

ワールド

米コーネル大、連邦助成金再開でトランプ政権と和解

ワールド

中国の駐大阪総領事投稿に強く抗議、適切な対応要求=

ビジネス

午前の日経平均は反発、ハイテク株買い戻し 米政府再
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 9
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 10
    「豊尻」施術を無資格で行っていた「お尻レディ」に1…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story