コラム

保育士不足解消に優遇措置を推進 慢性的な人手不足は解消できるのか?

2017年10月24日(火)12時10分

写真はイメージです。 TkKurikawa-iStock.

<同じ保育士でも公務員なら年収は民間の2倍以上。政府の政策は、民間の保育士の待遇の改善に本気で取り組んでいるのか疑問だ>

厚生労働省が、保育士の子供が優先的に保育所に入れるよう、優遇措置を実施することになった。保育士不足を解消することが目的だが、待機児童の問題が一向に解消されないのは、保育士の数が少ないことだけが原因ではない。本気で問題を解決したいのであれば、根本的な対応が必要となる。

有資格者のうち実際に保育士になっているのは3分の1だけ

働き方改革が社会的課題となり、保育施設の重要性がさらに高まっているが、保育士の慢性的な人手不足が解消される気配はない。保育士のなり手が少ないことが、待機児童問題の原因のひとつとされており、厚生労働省ではこうした事態に対処するため、保育士の子供を優先的に保育施設に入所できるよう各自治体に要請を行った。

保育士の子供を優遇する措置については、以前から政府内部で検討されており、一部の自治体では独自に制度の運用が行われてきた。一方、保育士が勤務する保育所への入所を制限するなど、優遇措置を実質的に制限している自治体もあることから、厚労省が調整に乗り出した格好である。

2016年10月時点における保育士の従事者数は、常勤換算で約35万7000人だった。しかし、保育士の資格を持ちながら保育士として働いていない人は70万人を超えるといわれている。この中には自分の子供を預ける場所がないという理由から職場を離れた保育士が含まれており、優先入所できるよう取りはからうことで、職場への復帰を促そうという試みである。確かにこの中の1割でも職場に復帰してくれれば、人手不足の問題はかなり解消されることになる。

だが、資格を持ちながら保育の仕事に従事しない有資格者がこれほどの数に上っているということは、自身の子供を預ける場所の問題だけではないことは明らかだ。人手不足にはそれなりの理由が存在しているはずであり、この部分を解決しなければ、人手不足はなくならないだろう。

よく言われているのが保育士の待遇である。2016年における保育士の平均年収は327万円で、幼稚園の教員などと比較すると低い水準にとどまっている。女性の社会進出が進んでいない日本の場合、一般的に女性の賃金は男性より大幅に低い。保育士は圧倒的に女性の方が多いので、女性という観点でみれば、特別に低賃金ということにはならないかもしれない。

だが、専門教育を受ける必要があり、しかも子供を預かるという相応の責任が発生する仕事であることを考えると、賃金が見合わないと考える保育士が多いのもうなずける。ちなみに厚労省が行った調査では、保育士とて就業しなかった理由のトップになったのは賃金だった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story