コラム

多様性重視の英労働党政権が白すぎる

2024年08月06日(火)17時56分

第2に注目したいのは、財務相に就任したレイチェル・リーブスが、これまでイギリス経済をおとしめるような発言に多くのエネルギーを費やしてきているということだ。彼女は何度も何度も、破滅的なイギリス財政を引き継ぐことになったと繰り返し発言している。

彼女のシンパの1人であるコラムニストのポリー・トインビーは、前財務相の功績を「意図的な破壊行為で、国に対する反逆行為」などと例えている。


明らかに、リーブスがこんな態度を取っているのには2つの理由がある。

その1、新政府が今後できることに対する国民の期待値を下げ(こんなひどい状態からスタートするのだから!)、増税への道を切り開くため(だってほかに選択肢はないのだから)。

だがもっと重要なのは、

その2、 無謀な保守党がイギリス経済を破壊し、労働党が現在それを救済している、という物語を作り上げることだ。

これは、復讐行為である。どういうことかというと、労働党は、2010年に政権を奪われた時に保守党から同じことをされた、と受け止めているのだ。

労働党政権時代の金融危機後にイギリスの財政は悪化したが、労働党はこれは自分たちの責任ではなく、世界的な経済危機のせいだと考えていた。その修復のために、国家債務は急増した。労働党にしてみれば、債務増加は労働党政権が浪費を続けた結果だ、などというのは保守党が吹聴する作り話だというわけだ。

失業率も少なくインフレ率も落ち着いてきたのに

実際、労働党政権が2010年に下野する際に財務相を務めていたリーアム・バーン大蔵首席政務次官が、後任に向けて「残念ながらもうお金がありません」と書いたメモを(冗談で)残したことで、こんな雰囲気を醸成する戦犯になってしまった。

そのメモは、史上最悪のジョークと評されている。これのせいで、保守党の長期にわたる緊縮財政と、それによる公共福祉水準の低下が「正当化」されてしまったと非難する人もいる。

前保守党政権に対してリーブスが攻撃姿勢を見せることの問題点は、投資家の信頼を損なうリスクを冒して党派政治を行っているように見えることだ。

イギリスはG7の中で最も急速に経済成長しているし、失業率は非常に低く、インフレ率は目標の2%に戻し、ポンドが1ポンド=1ドルにまで下落するのは「時間の問題だ」とまで言われていた頃から劇的に持ち直し(現在は1ポンド=1ドルよりは1.3ドルに近付いている)、住宅ローン金利は低下し、住宅価格の伸びは回復し、これらすべてが消費を促進し、経済成長を後押しし......という状況だ。にもかかわらずリーブスは、世界に向けて、イギリス経済が瀕死の状態だと訴えたがっているかのようだ。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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