コラム

大幅遅れに予算オーバー、でも完成すれば大絶賛 「エリザベスライン」開通もイギリスお決まりの展開に

2022年06月02日(木)17時00分
パディントン駅を訪問するエリザベス女王

ロンドンの新路線「エリザベスライン」の開通は英女王の在位70年のプラチナ・ジュビリーには何とか間に合ったけれど…(5月17日、パディントン駅を訪問するエリザベス女王)  Andrew Matthews/Pool via REUTERS

<ロンドンの地下鉄「エリザベスライン」が華々しく開通し、イギリスは称揚ムード。予算は何十億ポンドもオーバーし、当初の予定から3年半も遅れているのが実態なのに、文句でも言うと「否定論者」のレッテルが貼られる>

イギリスで行われる大規模工事プロジェクトは、笑えるほどに予想どおりな展開になる。華々しく計画が発表され、スケジュールに遅れが発生し、予算をオーバーし、ついに完成した時には大成功だと称えられる。偉大な国に「ふさわしい」ものが出来上がった、と。

完成後もまだ遅延だのコスト増だのに文句を言っている人は、「否定論者」とあしらわれる。僕が特に気に入らないのは、政府や建設会社といった当事者たちが、大規模プロジェクトはいつだって予算を超えてしまい遅れてしまうものであり、そんなこと「誰でも分かっている」などと開き直ること。それなら最初から、希望的観測の最高のシナリオをさぞ実現可能であるかのように提示するのでなく、もっと現実的な予算やスケジュールを発表すべきだろう。

イギリスで日常的にニュースを見ている人にとっては、こんなことは知らされるまでもないこと。でも、日本の人々はこの手のパターンを冷笑するのにはあまり慣れていないのではないだろうか。昨年の東京オリンピックの経験がある程度の教訓になったかとは思うが。

イギリスのウェンブリー・スタジアムは典型的な例だ(旧スタジアムを取り壊してこの新スタジアムが完成するまでの2002~07年の間、サッカーイングランド代表チームにはホームスタジアムが存在しなかった)。ロンドンオリンピックの会場になった数々の施設は実際のところ期限内に完成したが、コストは当初の推定金額の3倍にまで膨れ上がった。

思い返してみれば、2000年にオープンしたミレニアム・ドーム展覧会は、数々の数十億ポンドレベルのプロジェクトに比べればまだ安上がりだった。でも、補助金なしに自力で採算をとるためには開催期間の1年中、毎日満員の来場者を入れる必要があったという点が笑えた。まるで、多くの人が夏の週末に押し寄せる代わりに、11月の凍える平日の朝でも人々が常に満員の来場者になるよう綿密に計画して訪れてくれるだろう、とでもいうかのようだ。

乗り換えなしの直通が売りだったはずが

そして今回、新たにロンドン地下鉄「エリザベスライン」が、予算を何十億ポンドもオーバーし、予定を3年半遅れて開通した――あるいは、「ある意味で開通」をした。「クロスレール」の名で知られるこのプロジェクトは、終着駅で乗り換えたり地下鉄に移動したりしなくてもロンドンを横断できる、という構想のはずだった。ちょうど上野東京ラインみたいなものだった――僕が久しぶりに東京を訪れた際、多くの路線と相互直通運転する上野東京ラインが「突然魔法のごとく現れた」ように見えたものだ(突然出現したわけではないことは十分承知しているが)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story