コラム

認知戦で狙われているのは誰なのか?──影響工作の本当の標的

2025年09月03日(水)17時58分

しかし、なぜか認知戦の話題になると、影響評価は抜きにして仕掛ける側がやっていることと、仕掛けている相手を突き止めることだけに焦点が当てられることが多い。

自国のどこがどのようなダメージを受けているかはわからないままであることが多いため、ダメージの把握はできないし、当然ダメージの回復が行える道理がない。

この非合理きわまりない状況を端的に示したレポートがある。

効果が期待される対策、よく研究されている対策、スケーラビリティ(大規模に行うことが可能)という3つの視点で整理を行ったカーネギー平和財団の調査結果だ。

これら3つをすべて満たす対策がなかっただけではなく、効果が期待でき、スケーラビリティのある対策すら存在しなかった。

効果が期待でき、よく研究されている対策はメディア・リテラシー教育のみであった。行き当たりばったりで取り組んでいることがわかる。

被害の実態がわかっていないまま立案される対策が成功する可能性はきわめて低く、結果として2023年頃までこの領域の調査研究を寡占していた米国のように大失敗することになる。

EUも米国と同じ轍を踏んでいる。

2つの巨大な失敗事例を目にしている日本がわざわざ同じ轍を踏む必要はないと思うのだが、なぜか誰も轍の外に足を踏み出さない。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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