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アングル:高市政権、日銀との「距離感」に変化も 政府発信強まる可能性

2025年10月21日(火)12時15分

 10月21日、 高市早苗政権の発足を受け、政府と日銀の「距離感」に変化が生じるとの見方が出ている。写真は20日、国会内を移動する高市氏(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Kentaro Sugiyama

[東京 21日 ロイター] - 高市早苗政権の発足を受け、政府と日銀の「距離感」に変化が生じるとの見方が出ている。これまで金融政策は「日銀の専権事項」として日銀に委ねる姿勢を続けた石破茂政権に比べ、高市氏側からの発信トーンが強まる可能性がある。高市政権がどこまで踏み込み、どこで一線を引くのか。市場は新首相の次の言葉を固唾をのんで見守っている。

<前政権より強めのメッセージ>

「財政政策にしても、金融政策にしても責任を持たなければならないのは政府」――。自民党総裁選で選出後、マクロ経済運営スタンスについてこう語った高市氏。市場では、この発言を日銀の追加利上げに対する「けん制」と受け止める向きがある。

石破政権は金融政策の運営を「日銀の専権事項」として尊重しつつ、物価情勢などの認識共有にとどめてきた。植田和男総裁の下でマイナス金利解除と政策正常化が進んで以降も、政府側は利上げ判断など「箸の上げ下げには関与しない」スタンスを貫いていた。

一方、高市氏の経済ブレーンには、本田悦朗・元内閣官房参与や若田部昌澄・前日銀副総裁など、いわゆるリフレ派の論客が名を連ねる。いずれも、金融政策を景気政策の一部として積極的に用いるべきだとの立場だ。

高市氏と個人的な付き合いがあるという経済官庁の関係者は「(高市氏は利上げに関して)箸の上げ下げまで言わないが、食べこぼしせずにきれいに食べてくださいね、というスタンス」と表現。植田日銀に直接指図はしないまでも、物価が2%前後で安定することを重視し、強めのメッセージを送る可能性があるという。

連立パートナーの日本維新の会も、高市ラインにブレーキをかける気配は薄い。同党はこれまで金融政策に強いこだわりをみせず、ニュートラルな立場との見方が多い。藤田文武共同代表はテレビ番組のインタビューで、政府が一定の責任を持つ高市氏の考え方に「近しい」との認識を示したものの、両党が20日に交わした12項目の政策合意書には「金融政策」の文言はみられなかった。

内閣官房幹部は「維新は社会保障改革や統治機構改革が優先事項。金融政策で足並みを乱すことはないだろう」と指摘。実質的には「首相の考え方が通る」構造になるとみる。

<物価高、米政権が促す現実路線>

もっとも、実際の政策運営は現実路線になるとの見方もある。

岸田文雄政権時の官邸幹部は「リフレ派の方たちと考え方を共有していても、総理になったら現実的に判断をせざるを得ない」と指摘する。過度な金融緩和は円安を通じて輸入物価を押し上げ、物価高対策を相殺しかねない。「トランプ政権が円安是正を求めることなども考えて対応するということになれば、それほど大きく岸田政権、石破政権と変わらないかもしれない」と話す。

党総裁選で高市氏の推薦人となった議員らが参加する「責任ある積極財政を推進する議員連盟」のアドバイザーを務めるクレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストも「来年1月までに利上げを実施することは容認される」と予想。日銀は利上げ継続姿勢を急に転換できないため、新政権には政策金利を0.75%に引き上げてもまだ十分緩和的だと説明して利上げに踏み切るとの見方を示す。

市場では、植田総裁との初会談の時期にも注目が集まる。石破氏は日銀総裁と官邸で会談後、「追加利上げをするような環境にはない」と発言して市場を動かした経緯がある。首相の発言ひとつが円相場を揺らすリスクを示した。

高市氏も近く、経済・物価情勢の認識共有を目的に総裁と面談すると予想されている。市場では高市氏が「どこまで金融政策に踏み込むか」に関心が高まる。為替・金利・物価、そして米政権。日銀の自主性を保ちつつ、政治の意向を反映させる「距離の取り方」が、当面の高市政権の試金石となりそうだ。

ロイター
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