ニュース速報
ワールド

焦点:米の新たな対中関税、メキシコやベトナム経由で迂回の恐れ

2024年05月15日(水)18時49分

バイデン米政権は14日、米国の産業を守る目的で、電気自動車(EV)、半導体、医療用製品など中国からの輸入品に対する関税を大幅に引き上げると発表した。これにより、中国製品が関税を逃れるためにメキシコやベトナムなどを経由して米国に流入する動きが加速する可能性が高いという。写真はバイデン大統領。米ホワイトハウスで13日撮影。(2024年 ロイター/Elizabeth Frantz/ File Photo)

David Lawder

[ワシントン 14日 ロイター] - バイデン米政権は14日、米国の産業を守る目的で、電気自動車(EV)、半導体、医療用製品など中国からの輸入品に対する関税を大幅に引き上げると発表した。だが、これにより、中国製品が関税を逃れるためにメキシコやベトナムなどを経由して米国に流入する動きが加速する可能性が高いという。

米政府高官や専門家は、メキシコなどを経由した、あるいはメキシコなどで若干加工された中国製品の輸入を遮断する強力な措置がなければ、安価な中国製品は引き続き米国市場に流入することになるとみている。

コーネル大学教授で、国際通貨基金(IMF)の中国部門責任者だったエスワー・プラサド氏は「新たな関税は中国からの輸入を締め出すかもしれないが、その輸入の多くが関税対象外の国を経由して迂回される可能性がある」と指摘。特にメキシコとベトナムは、コストが安く近いため、米中貿易摩擦の激化の恩恵を受けているとし、米国の「怒り」を回避する必要があると語った。

第1・四半期の米貿易統計では、中国からの輸入が1000億ドルに満たないのに対しメキシコからの輸入は1150億ドルを超え、対米輸出のトップに躍り出た。

こうした中、メキシコから米国に輸入される鉄鋼製品の増加や、中国EV大手の比亜迪(BYD)がメキシコ工場の建設地を探していることを受け、メキシコが米関税を回避するための中国製品の積み替え拠点になる懸念が高まっている。ロイターは先月、米当局者がメキシコに対し、中国自動車メーカーへの投資優遇措置の適用を拒否するよう圧力をかけたと報じた。

米通商代表部(USTR)のタイ代表は記者団に、メキシコと中国との貿易関係を懸念しているとし、関税逃れの問題を回避するための今後の個別の取り組みに「注目してほしい」と述べた。

メキシコは貿易に関する米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の下、米国の関税がほぼゼロという恩恵を受けている。一方、ベトナムについては米商務省が「市場経済国」としての認定を検討しており、認定されれば同国からの輸入品に対する反ダンピング関税が軽減される。

USTRのキャラ・モロー上級顧問は対中関税発表に先立つロイターのインタビューで、USTRは中国産鉄鋼・アルミニウムの積み替え増加を抑える方法をメキシコ側と交渉してきたと語った。

バイデン政権は今回、1974年通商法301条に基づき、鉄鋼関税を7.5%から25%に引き上げると発表したが、多くの中国鉄鋼製品には他に25%の国家安全保障関税と3桁の反ダンピング・反補助金関税もかけられている。

米国当局はメキシコに対し、USMCAは北米の統合と競争力を促進するためのものであり、「中国に裏口を提供するためのものではない」と明言している。

モロー氏は、USTRはメキシコと鉄鋼・アルミニウム反ダンピング関税や、鉄鋼とアルミニウムの輸出入の監視強化など難しい交渉のステップについて議論しているが、メキシコ政府関係者も中国の過剰生産を自国経済への脅威と見なしていると述べた。

(システムの都合で再送します)

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

オーストリア中銀総裁、金利見通しに慎重姿勢 利下げ

ワールド

英首相、第2次世界大戦の式典退席を謝罪 選挙戦に痛

ワールド

北朝鮮がごみ風船再開、韓国は拡声器放送で対抗へ

ワールド

仏戦闘機、ウクライナに年内供与 パイロット訓練へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナの日本人
特集:ウクライナの日本人
2024年6月11日号(6/ 4発売)

義勇兵、ボランティア、長期の在住者......。銃弾が飛び交う異国に彼らが滞在し続ける理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...? 史上最強の抗酸化物質を多く含むあの魚

  • 2

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっかり」でウクライナのドローン突撃を許し大爆発する映像

  • 3

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らかに ヒト以外で確認されたのは初めて

  • 4

    ガスマスクを股間にくくり付けた悪役...常軌を逸した…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 7

    ロシア軍が「警戒を弱める」タイミングを狙い撃ち...…

  • 8

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕…

  • 9

    英カミラ王妃が、フランス大統領夫人の「手を振りほ…

  • 10

    【独自】YOSHIKIが語る、世界に挑戦できる人材の本質…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 5

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 6

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「…

  • 7

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 8

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 9

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 10

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中