ニュース速報

ワールド

北朝鮮のミサイルが日本上空を通過、通告なく高まる緊張

2017年08月29日(火)18時58分

 8月29日、北朝鮮は29日早朝、同国西岸から弾道ミサイル1発を発射した。写真中央は北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長。KCNAが25日提供(2017年 ロイター)

[東京 29日 ロイター] - 北朝鮮は29日早朝、同国西岸から弾道ミサイル1発を発射した。ミサイルは日本上空を通過し、北海道襟裳岬の東方約1180キロの太平洋上に落下した。国際社会が自制を求めてきたミサイル発射を強行し、さらに事前通告なしに日本を飛び越える打ち方をしたことで、北朝鮮を巡る緊張は一段と高まる恐れがある。日米は首脳が、米韓は外相が電話で会談し、北朝鮮への圧力を強めることで一致した。

<韓国軍は空爆演習で対抗>

北朝鮮のミサイルが日本本土の上空を通過したのは2009年以来。1998年にも同様の打ち方をしており、その際は今回のように事前通告がなかった。安倍晋三首相は記者団に、「我が国を飛び越えるミサイル発射という暴挙は、これまでにない深刻かつ重大な脅威」と述べた上で、国連安全保障理事会の招集を要請した。

安倍首相はトランプ米大統領と電話で40分会談。その後に記者団に対し「北朝鮮に圧力をさらに強めていくということで日米は完全に一致した。強い圧力をかけ、彼らの政策を変えなければならない」と語った。ティラーソン米国務長官と韓国の康京和(カンギョンファ)外相も、北朝鮮への制裁強化を議論することで合意した。韓国空軍は戦闘機が爆撃訓練も行った。

一方、中国は外務省報道官が、圧力一辺倒では問題解決につながらないと日米韓をけん制した。同時に、北朝鮮が国連決議に反して弾道ミサイルを発射することに反対した。

北朝鮮がミサイルを発射したのは午前5時58分ごろ。日本政府によると、ミサイルは日本上空を通過し、北海道襟裳岬の東方約1180キロに落下した。当初は3つに分裂したとしていたが、その後、分裂したかどうか分析中と修正した。韓国軍によると、ミサイルは2700キロメートル飛行、高度は550キロに達した。

日本は発射時からミサイルを追跡。領域内へ落ちる恐れがないと判断し、迎撃ミサイルによる破壊措置は実施しなかった。ミサイルは排他的経済水域(EEZ)に着水し、日本領域内への落下物は確認されていない。

日本はミサイル迎撃能力があるイージス艦を日本海に常時展開している。地上配備型の迎撃ミサイル「PAC3」の高射隊も全国17カ所に配置している。

<中距離「火星12号」か>

小野寺五典防衛相は記者団に対し、ミサイルの種類について、北朝鮮が5月14日に発射した中距離弾道弾「火星12型」を可能性の1つに挙げた。5月は意図的に高い角度をつけた「ロフテッド軌道」で打ったが、今回は通常の軌道で発射したと日本政府はみている。北朝鮮は8月9日、同ミサイルを米空軍のアンダーセン基地があるグアム周辺に打つと予告していた。日本の防衛省は今も分析を続けており、中距離弾「ムスダン」や、7月に発射した大陸間弾道弾(ICBM)級の可能性もあるとしている。

北朝鮮はミサイル発射を繰り返しているが、日本本土の上空を通過するミサイルを発射したのは98年、09年に続いて3度目。さらに12年と16年には沖縄県上空を通過させている。いずれも「人工衛星」打ち上げのロケットと称し、98年以外は事前通告をしていた。

小野寺防衛相は記者団に、「まったく日本に通告なしでこのようなミサイル発射を行うのはたいへん危険な行為。我が国に対する安全保障上の懸念がいっそう強まった」と語った。

河野太郎外相は、関係国に電話会談を申し入れたことを明らかにした上で、「今まで以上の圧力をかける必要がある」と述べた。英国のジョンソン外相はツイッターに、北朝鮮のミサイル発射という「無謀な挑発行為」に「憤りを感じる」と投稿した。

*写真を更新しました。

(田巻一彦、久保信博※)

ロイター
Copyright (C) 2017 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、15日にトルコで直接協議提案 ゼレンス

ビジネス

ECBは利下げ停止すべきとシュナーベル氏、インフレ

ビジネス

FRB、関税の影響が明確になるまで利下げにコミット

ワールド

インドとパキスタン、停戦合意から一夜明け小康 トラ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 3
    「隠れ糖分」による「うつ」に要注意...男性が女性よりも気を付けなくてはならない理由とは?
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中