ニュース速報

ワールド

焦点:中国が密輸摘発を強化、地下に潜る「ゾンビ肉」

2015年07月16日(木)16時07分

 7月16日、中国では、食肉需要の増加に国産肉や正規輸入肉だけでは追いつかず、密輸業者が暗躍している。香港で13日撮影(2015年 ロイター/Bobby Yip)

[上海/香港 16日 ロイター] - 中国本土にほど近い香港北部のほこりっぽい倉庫街の一角で、40人近い集団が7月の暑い日差しを避けながら、発砲スチロールと一緒にバッグに何かを詰めている姿があった。彼らが手にしていたのは、中国本土に持ち込まれる密輸肉だ。

中国では、食肉需要の増加に国産肉や正規輸入肉だけでは追いつかず、密輸業者によって冷凍のブラジル産牛肉などが持ち込まれている。政府は昨年に密輸肉の取り締まりに乗り出したが、それ以降は闇市場での流通が増えており、そこでは副業的に働く密輸業者たちが暗躍している。

香港の密輸業者アラン・ウォン(36)は「以前はトラックを使っていたが、それらは日本やニュージーランド、もしくは米国からの高品質牛肉のためだった」とロイターの取材に語った。現在、中国本土に持ち込まれる密輸肉は、それより質の落ちたものだという。

こうした業者や複数の税関当局者らへの取材から見えてくるのは、香港やベトナムから中国本土に食肉が不正に持ち込まれている実態だ。また当局の摘発が強化されるに従い、より深く地下に潜る密輸業者たちが、食の安全でより大きなリスクを冒している姿も浮かび上がってくる。

オーストラリアなどの正規の食肉輸出企業らによると、闇市場で取引される肉は高関税を免れるため価格は30─60%安いが、消費者衛生上の懸念は強まっているという。

上海を拠点とする食肉産業の専門家は「国境のベトナム側では売れない肉を抱えている人たちがいる。彼らはそうした肉を中国に持ち込むため、川の至る所で小さな部位に切り分けている。(取引が)より地下に潜っているため、より危険だ」と語った。

<40年前のゾンビ肉>

中国は世界最大の肉消費国だが、BSE(狂牛病)などの安全上の問題などを理由に、輸入は厳しく規制してきた。その結果、需要が国内の供給量を上回るようになり、密輸業者に付け入る隙を与えた。

密輸肉の摘発は今年に入り、それまでの約3倍に増えた。新聞などにも取り上げられるようになり、食品スキャンダルには慣れている中国の消費者にも警戒心が強まった。

6月には複数の現地メディアが、当局が差し押さえた密輸肉10万トン強の一部に、40年前の「ゾンビ肉」も含まれていたと報じた。

税関当局者と警察はロイターの取材に対し、今年発見された最も古い肉は4─5年前のものだが、2年前には1967年の日付が押されたニワトリの足が押収されていたと認めた。

検査が厳しくなったことで、中国に入ってくる冷凍トラックを税関当局者が見過ごすことはもはや少なくなった。それにより、密輸業者は以前にも増して危険な運搬方法を選ぶようになっている。

湖南省・長沙の税関職員はロイターに「彼らはアリが巣を移動するかのごとく、1回につき1箱で肉を運んでくる」と語った。

香港ではロイターの取材陣は、「ボイブラジル」や「カーギル」とラベルされた肉入りケースが再梱包される場面を目撃した。

ブラジルの食肉会社ボイブラジルの広報は、自社製品が中国に密輸されていることは知らないとし、それ以上のコメントは差し控えた。

米大手商社カーギルの広報担当マイク・マーティン氏は、同社は香港の正規卸業者に牛肉を売っており、「そこから先の販売や流通についてはどうすることもできない」と話した。

<途切れる低温物流>

6月1日に長沙で行われた強制捜査では、未明に密輸捜査官らが20トンのコンテナトラックを取り囲んだ。積み荷の中身は、べトナムから小ロットで持ち込まれた腐りかけのインド産牛肉だった。

関係者の1人は「(肉は)冷蔵スペースに戻されていなかったので、われわれがコンテナを開けた時は異臭を放っていた」と当時の様子を語った。

こうした肉の多くは、広西チワン族自治区の東興など、ベトナムと川で国境を接する町を通じ、中国本土に持ち込まれる。

ベトナム側では密輸肉は、北部の港湾都市ハイフォンなどから、中国との国境都市モンカイの保税倉庫にコンテナトラックで運ばれる。そこで小分けにされる時に「低温物流」が途切れるため、冷凍肉は解けることになる。

野生動物保護協会(WCS)のために広範な密輸を調査していたハノイ在住のスコット・ロバートソン氏によれば、そこからバイクで運ばれた肉は平底船に乗せられ、川の反対側で待つトラックに渡されるという。

<サプライチェーン>

中国では、肉は巨大な卸売市場に集められ、そこからスーパーや食肉加工施設、地方の市場に向けて運ばれる。

長沙の税関当局者らは、1年間に取り扱う80万トンの肉のうち、約3分の1が「出所不明」の中国以外から持ち込まれたものだとしている。

中国では過去数年、多数の乳幼児に被害が出た汚染粉ミルク事件が起きたほか、キツネ肉がロバ肉と偽装されるなど、食品スキャンダルが後を絶たず、業者や消費者の間に疑念が広がっている。

貴州省出身の学生タン・ミンさん(23)は、最近は値段が安い食品は避け、良く知られたブランドを選ぶようになっていると語る。

「今は生鮮市場では冷凍肉は買わないようにしている。いつからそこに置いてあったのか分からないから」

(原文:Adam Jourdan and Clare Baldwin、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)

ロイター
Copyright (C) 2015 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=連日最高値、エヌビディア急伸 ハイテ

ビジネス

エヌビディア時価総額5兆ドル目前、政府向けスパコン

ワールド

ブラジル・リオで麻薬組織掃討作戦、過去最悪の64人

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、日米当局者の発言で財政懸念
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 4
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 5
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 6
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 7
    「何これ?...」家の天井から生えてきた「奇妙な塊」…
  • 8
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 9
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中