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訂正-インタビュー:年内利上げは困難、12月なら「相当強い理由が必要」=若田部元日銀副総裁

2025年10月09日(木)09時42分

 10月9日、 日銀副総裁の若田部昌澄・早稲田大学政治経済学術院教授(写真)はロイターとのインタビューで、12月に政策金利を引き上げるのであれば「相当強い理由がないといけないのではないか」と述べ、日銀による年内の利上げは困難との見方を示した。ダブリンで2019年2月撮影(2025年 ロイター/Clodagh Kilcoyne)

(1段落目の「日銀副総裁」を「元日銀副総裁」に訂正します)

Takahiko Wada Leika Kihara

[東京 9日 ロイター] - 元日銀副総裁(訂正)の若田部昌澄・早稲田大学政治経済学術院教授はロイターとのインタビューで、12月に政策金利を引き上げるのであれば「相当強い理由がないといけないのではないか」と述べ、日銀による年内の利上げは困難との見方を示した。日銀の利上げ路線自体には理解を示し、経済が順調に推移し、物価安定目標を達成する確度が高まるなら金利を引き上げるのは「当然ありうる」と話した。

若田部氏は2018年3月から23年3月まで日銀副総裁を務め、当時の黒田東彦総裁とともに大規模な金融緩和を推進した。リフレ派の論客として知られ、高市早苗自民党総裁が編著者として24年8月に出版した『国力研究 日本列島を、強く豊かに。』で財政・金融について論じた。市場では、高市氏が首相に指名された場合のマクロ経済政策運営に若田部氏の考えが大きな影響を与えるとの見方が出ている。

若田部氏は、足元の労働市場は芳しくないとし、11月17日に政府が発表する7─9月実質国内総生産(GDP)1次速報の数字が悪ければ「12月の利上げは難しいのではないか」と話した。「10月あるいは12月に利上げするのかどうか、日銀はコミットしているようには見えず、シグナルも出していない」とも述べた。ESPフォーキャスト9月調査で、7─9月期の実質GDPは前期比年率マイナス1.11%とマイナス成長が見込まれている。

若田部氏は「経済が巡航スピードで推移し、物価安定目標を持続的・安定的に達成する見込みの確度が高まってくるなら利上げは当然ありうる」と日銀が利上げを継続する方針に理解を示す一方、望ましい金融政策運営は「高圧経済論と統合運用論だ」と指摘。景気を「無理に過熱させる必要はないが、ある程度景気は温め続けることが望ましい」と話した。

高市氏が4日の自民党の総裁に就任して以降、外為市場で円安が急速に進み、ドル/円は8日に一時153円を付けた。高市総裁が就任会見で財政政策、金融政策とも「政府に責任がある」と話したことで、市場は次期政権が積極財政を進めるとともに、日銀の追加利上げ時期が遠のいたと受け止めた。

若田部氏は、円安がインフレを加速するかは「円安で起きることがどこまで持続的なのかにもよる」と指摘した。その上で、日銀が示した長期時系列の消費者物価指数(CPI)の要因分解を見ると、為替は確かに物価に影響しているが「それほど24年の段階でも大きくない」とし、「日銀が本当に為替を気にするのであれば、物価にどれだけパススルー(転嫁)があるのか明らかにするべき」と述べた。

若田部氏は任期の半分を過ぎた植田和男総裁下の金融政策運営について「慎重に政策運営してきた」と評価しつつ、基調物価の上昇に応じて段階的に政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくという利上げの論法には疑問を呈した。

「金融緩和度合いの調整は景気を冷やす方向だが、基調的な物価を上げることとどう整合的なのかわからない」と述べた。食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く「欧米型コアCPI」の伸び率は足元1.6%程度でほぼ横ばいで、「利上げする必要性はあるのか」と話した。「今の日銀のロジックからすると、足元の景気の動向や需給ギャップがあまりインフレのダイナミクスに影響しないと考えているようだ」とも話した。

高市総裁は4日の会見で、政府と日銀がより連携する必要性に言及し、13年1月に策定した共同声明(アコード)を見直す可能性にも踏み込んだ。若田部氏は、政府の財政政策と日銀の金融政策が一体的に運営されるべきとする「統合運用論」の立場からは、政府の経済政策の基本方針との整合性と緊密な連携を規定した日銀法4条の精神が重要だと述べた。その上で「財政の動向に応じて金融が受動的にやらないといけないわけではない」とも付け加えた。

アコードについては、「12年間で起きたことを踏まえ、今の共同声明で何か足りないものがあるのかという議論はあってもいいかもしれない」と指摘した。一方で、「日本はまだ2%にインフレがアンカーされていないのであれば共同声明を変えることにあまりメリットはないかもしれない」と述べた。

*インタビューは8日に実施しました。

(和田崇彦、木原麗花 編集:久保信博)

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