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焦点:EV時代の勝者、アップル関連の国内電子部品株か

2017年09月27日(水)19時06分

 9月27日、電気自動車(EV)の関連株として、米アップルのサプライヤー企業が人気を集めている。次世代完成車の「勝者」は不透明だが、日本が強みを持つ電子部品の需要は拡大していくとの読みだ。写真はデトロイトで2015年1月撮影(2017年 ロイター/Mark Blinch)

[東京 27日 ロイター] - 電気自動車(EV)の関連株として、米アップルのサプライヤー企業が人気を集めている。次世代完成車の「勝者」は不透明だが、日本が強みを持つ電子部品の需要は拡大していくとの読みだ。一方で、既存の自動車部品株は苦しいものの、完全EV化には課題も多く当面はガソリン車などと併存するとの見方もある。

<EVの「3種の神器」>

EV部品で重要度の高い「3種の神器」とされるのが、電池、モーター、インバーターだ。電池は電気を貯蔵し、モーターは動力を発生させ、インバーターは電池からモーターへの電流を直流から交流に変換させ制御する。

村田製作所<6981.T>、TDK<6762.T>、日本電産<6594.T>、ローム<6963.T>など日本の電子部品メーカーは、モーター、インバーターの本体だけでなく細かな構成部品であるコンデンサ、インダクタ、抵抗器、コネクタ、電源制御用IC、プリント基板なども製造している。

BNPパリバ証券・アナリストの若杉政寛氏は、自動車業界でEVのシェアが高まっていけばコンデンサ、インダクタ、抵抗器の需要が高まると予想。そうした部品メーカーは「スマホの価格競争が激しいので、車載向けにシフトしていきたいという動きはある」と分析する。

米アップルが販売するスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の部品を製造していることでアップル関連株と位置づけられる日本の電子部品メーカーだが、市場では早くもEV関連株として評価する動きもあるようだ。

UBS証券ウェルス・マネジメント本部のジャパン・エクイティ・リサーチ・ヘッド、居林通氏は「スマホを開けると日本の部品がたくさん入っているように、電気自動車を分解すると日本製の部品だらけ、ということになるだろう」と予測する。

アップルの「iPhone8」の苦戦が伝えられているものの、村田製の株価は年初から直近高値の8月3日まで約13.5%上昇。ロームは9月に外資系証券の目標株価増額もあって直近高値の9月25日まで約36.5%の急騰だ。日本電産も、直近高値の9月21日まで約30.9%上昇している。

<エンジン関連部品はゼロに>

一方で、既存の自動車部品メーカーは苦境に立たされている。経済産業省の試算によれば、EV車は一般的なガソリンエンジン車との比較ではエンジン関連部品の構成比は23%からゼロ%へ、駆動/伝達系部品の構成比も19%から7%へ減少する。

7月にはフランスや英国が2040年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止すると発表。中国もこれらの車の生産・販売禁止時期の検討に入ったと今月中旬に報じられた。

インドも2030年までに国内で販売されるすべての自動車をEVのみとする政策を打ち出しており、ここ数カ月間でEV普及に向けた世界的な動きが加速している。

排気ガスのフィルターを製造しているイビデン<4062.T>の株価は、終値で年初来高値を付けた5月2日から9月26日まで約13.4%の急落。同社の広報担当は「DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)の需要は減っていくだろうし、EVシフトは脅威といえば脅威」と話す。

エンジン関連では日本ガイシ<5333.T>が約9.8%、日本特殊陶業<5334.T>が約12.1%、年初から26日まで下落している。

<当面共存との見方も>

ただ、SMBC日興証券・シニアアナリスト、松本邦裕氏は「(市場では)既存のエンジンメーカーが死んでいくストーリーになっているようだが、それは明らかに違う」と指摘する。

具体的には、高価なEVに手の出ない消費者が多い新興国市場でガソリン車のシェアが一定程度確保できるなら「既存の自動車部品メーカーでも、利益は取れる」と同氏は予想している。

国内の価格を比較しても、日産自動車<7201.T>が10月2日から国内で販売予定の新型EV「リーフ」は、一番手ごろな「リーフS(2WD)」のメーカー希望小売価格が315万036万円。国の補助金を利用した場合でも275万036万円だ。小型ハイブリッド車(HV)や軽自動車と比べ100万円以上高い。

充電ステーション分野では、30分程で充電できる「急速充電設備」の本体の中心価格帯が200万円ほど。家庭用の電源(200V)から4─8時間で充電する「普通充電設備」でも50万─100万円が相場となっている。

米ゴールドマン・サックスは9月6日付リポートで、純粋なEVの販売が本格化するのは2025年からと予想。割高な価格設定、充電インフラの整備、充電時間、航続距離などの課題すべてを同年までにクリアすることは不可能で、2030年までは内燃機関が中心的役割を果たすとしている。

三菱UFJモルガンスタンレー証券・シニアアナリストの杉本浩一氏も、完全なEVシフトは2040年でも無理だろうと予想する。「30年後、40年後にはプラグイン・ハイブリッド車(PHV)、EV、燃料電池などが残り、各地域やセグメントによって最適な車が選ばれる時代になる」との見方を示している。

*電子部品メーカーとEV向けで需要増が期待される部品  

村田製作所 コンデンサ、コネクタ、抵抗器

日本電産 モーター、インバーター

ローム 電源IC,コンバーター、パワー半導体

TDK コンデンサ、コネクタ、センサー

*見出しを修正しました。

(辻茉莉花 編集:伊賀大記)

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