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アングル:下げ渋るドル/円、介入警戒・日銀緩和の思惑で

2016年04月18日(月)19時38分

 4月18日、週明けのドル/円は、原油安・株安・相場に対する日米当局の見解不一致などドル/円の売り材料が並んだが、下げ渋りの様相を見せた。写真はスクリーンを眺める外為取引会社の従業員、都内で2月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 18日 ロイター] - 週明けのドル/円は、原油安・株安・相場に対する日米当局の見解不一致などドル/円の売り材料が並んだが、下げ渋りの様相を見せた。東日本大震災後に協調介入があったことへの連想から介入警戒感が意識されたほか、日銀追加緩和への思惑も根強かったためだ。

ドル/円の本格的な反発には米早期利上げ観測の再浮上が必須との声は多いが、投機筋の円買いポジションが膨らんで短期的な反発リスクも高まってきており、神経質な相場が続きそうだ。

<弱い地合いが政策期待蒸し返し>

18日の東京市場では、実需筋や個人投資家が様子見姿勢を強める中、短期筋を中心に108円を挟んだもみ合いが続いた。108円を何度も割り込んでは値を戻し、底堅さが意識された。年金筋によるドル買い/円売りも観測され、相場の支えになったようだ。

前週末には、ルー米財務長官の円安けん制発言が伝わって、日本当局による為替介入への警戒感が後退。そこに産油国会合での増産凍結不発が判明し、原油先物が急落。熊本地震による製造業の業績懸念からリスク回避の円買いも加わるなど、ドル売り/円買い材料が並び、本来ならばドルが急落してもおかしくない弱い相場環境だった。

市場では、107.63円の年初来安値を早々に割り込んでもおかしくなかったとの見方も浮上していた。

こうした弱い地合いが、かえって28日に予定される日銀金融政策決定会合での追加緩和や、円売り介入、財政出動への期待感を強める作用を果たしている面もありそうだ。

クレディ・アグリコル銀行・外国為替部長、斎藤裕司氏は「原油安で上値は重いが、政策発動期待で下値も限定的だろう」と指摘している。

<熊本地震で為替介入への思惑も>

ドル/円をサポートする要因の1つである為替介入は、米国からけん制されたばかり。だが、熊本地震の発生によってあらためて意識されている。2011年3月の東日本大震災後のドル/円急落時に、7カ国(G7)による10年半ぶりの協調介入があったためだ。

地震発生の3月11日高値83円付近から、ドルは下落基調をたどり、17日には76.25円まで下押しした。

G7財務相・中央銀行総裁は18日午前の臨時電話会議で、協調した円売り介入に合意し、同日午前9時に介入を実施。79円前半で取引されていたドル/円は、81円前半に約2円上昇。4月6日にかけて85.53円に上値を伸ばした。

市場では、足元の相場でもドル/円の下押しが今後急激に強まるようなら「為替介入の十分な理由になり得る」(邦銀)との見方が出ている。

一方、日銀の追加緩和については、上場投資信託(ETF)購入枠の拡大といった質的緩和による株高経由の円安が期待されている。

今月の金融政策決定会合は、米連邦公開市場委員会(FOMC)の直後となるため「FOMCでドル買いの流れが出るかどうかが重要だ。いい流れになれば、日銀の追加緩和による円売り効果も強まりそうだ」(国内金融機関)との思惑が聞かれる。

<大型連休への警戒感も>

もっとも、足元のドル/円は下げ渋りの一方で上値も重く、「なかなか底が固まらない」(邦銀の外為ディーラー)との声も聞かれる。原油安・株安の流れが欧米市場に引き継がれるようなら、下押しが強まりかねないとの警戒感も出ていた。

為替介入や追加緩和は、過去の例を参考にしつつ、短時間しか効果が持続しないとみられがち。東日本大震災後の為替介入でドル/円は85円台に戻した後に失速し、再び下落基調に回帰した。

日銀が追加緩和に乗り出し、円安効果が出た場合でも、28日夜には1─3月米国内総生産(GDP)が発表される。米アトランタ地区連銀が公表済みの経済指標に基づいて算出するGDP予想「GDP NOW」では、前期比0.3%増と低調だ。実際に弱い数字となれば、ドル売り/円買いが再燃しかねない。

日本では、翌29日以降に大型連休を控え、緩和効果の持続力が途切れやすいとの見方もある。むしろ国内勢が不在となることで海外投機筋による仕掛け的な円買いが出やすいとの観測もある。「連休中の円高を警戒する必要がある」と、外為どっとコム総研の調査部長、神田卓也氏は指摘する。

目先の下値メドは年初来安値107.63円付近とされる。これを割り込むと、2011年の安値75.31円から昨年高値125.86円のフィボナッチ・リトレースメント38.2%押しに当たる106円程度や、心理的節目となる105円まで目安が見当たらないとみられている。

105円を割り込むようなら、投げ売りが出やすく下げが加速するとみられている。その先には100円の大台が間近に迫る。それだけに105円に接近すれば、日銀のレートチェックや政府要人によるけん制発言が出やすいと警戒されている。

米商品先物取引委員会(CFTC)が15日発表したIMM通貨先物の非商業(投機)部門の取組(4月12日までの1週間)によると、円の買い越しは6万6190枚と過去最高水準に膨らんだ。

投機筋による下値攻めが意識される一方、投機筋には相場反発のリスクもつきまとっており、当面は神経質な相場展開が見込まれる。

SMBC信託銀行プレスティア・シニアFXマーケットアナリスト、尾河眞樹氏は「結局、ドルは米国が利上げしないと上昇しない」と指摘している。

米早期利上げをめぐる市場の思惑が後退する中で、6月利上げにも懐疑的な見方が出始めており、ドル/円の本格的な反転上昇にはまだ時間がかかりそうだ。

(平田紀之 編集:田巻一彦)

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