ニュース速報

ビジネス

インタビュー:人民元バスケット制求める声も=ADBI所長

2016年02月01日(月)17時32分

 2月1日、ADBIの吉野直行所長はロイターとのインタビューで、中国内にはドルの変動による人民元への影響を緩和する通貨バスケット制を採用する意見があると指摘。香港で昨年8月撮影(2016年 ロイター/Tyrone Siu)

[東京 1日 ロイター] - アジア開発銀行研究所(ADBI)の吉野直行所長(慶応大学名誉教授)は、ロイターとのインタビューで、中国内にはドルの変動による人民元相場への影響を緩和する通貨バスケット制を採用する意見があると指摘。

バスケット制に移行する場合のドルの比率は0.58程度が望ましいとした。また過剰債務問題の解決に中国政府は楽観的だとし、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を活用した海外需要取り込みなどに取り組んでいると述べた。

インタビューの詳細は以下の通り。

──人民元相場は昨夏以来、切り下がってきた。人民元改革はどのような方向が望ましいのか。

「中国経済はいまだ輸出主導に偏りがちであり、内需主導型経済に移行するには、もう少し人民元相場が高くなった方が望ましいだろう」

「為替相場の決め方についても、現在は事実上ドルペッグ制に等しいが、多通貨でウエート付けするバスケット制への移行が望ましい。貿易のウエートだけではなく、各国との資本移動・中国の経済構造などにも依存して決定される。その結果、ドルの変動による人民元への影響を低く抑えることが出来るようになる。私の計算では、ユーロや円など他通貨も取り入れ、バスケットにおけるドルの比率を現状の0.88程度から0.58程度に引き下げると望ましいレート形成になる。OECDもバスケット制への移行を推奨しているが、中国内では一部には賛成しないグループも存在する」

「また現状では資本取引が規制されているが、3、4年かけて徐々に資本移動を自由化すべきだろう」

──中国は過剰債務など構造問題を抱えたままでは、いったん混乱が沈静化しても、うみを出し切れないとの見方が根強い。

「深刻な構造問題である過剰債務の解決について、中国国内の見方と海外の見方は大きく異なる。中国政府など当局は海外よりも楽観的だ。アジアインフラ投資銀行(AIIB)を活用して、過剰生産設備を抱えるセメントやアスファルト、鋼材等を海外需要に充てることができるためだ」

「資金についても、自国の外貨準備だけでなく、AIIB参加国の資金も取り込むことができるメリットがある。インド北東地域や中東地域では、中国がインフラ開発を主導しようとしている」

「もう一つの構造問題として、地方政府が税収を中央政府に吸収されてしまうために、不動産関連収入に依存している問題について、地方債の発行や地方税収の割合を引き上げる改革への取り組みを進めようとしている」

──成長率はこのまま減速が強まっていくのか。日本企業は中国ビジネスをどう見直す必要があるか。

「製造業からサービス業への産業構造の変化が進むにつれ、成長率が低下することはやむを得ない。サービス産業は、中国では税収漏れが常態化していることもあり、統計上は成長として把握しにくいためだ」

「日本企業にとっては、中国の産業構造の変化に伴い、中国への輸出が減速することはやむを得ない。中国向けの減少を補うべく、これから発展する余地の大きいインド、ベトナム、ミャンマーなどに、インフラ需要などを取り込んでシフトさせていくことが期待される」

──米国の利上げや原油安による中国や新興国への影響をどう見ておけばよいか。

「これまでの過剰流動性の副作用を考えれば、米国が利上げに転換したことは正しい判断だが、時期がやや早すぎた感がある。資源国からの資金の逆流も起きて、金融市場も大荒れとなった。1、2月をうまく乗り切れるかどうか正念場だ」

「欧州や日本は緩和が行き過ぎている面があり、これらのマネーがどこに行くか気になる。金融緩和が続きすぎると、いずれバブルか相当なインフレが起こる可能性が高い」

「原油安は、産油国に打撃を与えているが、アジアでの資源国はインドネシアやマレーシアだ。マレーシアは資本移動が制限されているが、インドネシアでは預金がシンガポールに流れている。同国の債務は3割程度がドル建てであり、ドル高で債務問題も浮上するだろう。財政赤字が増えれば、国債格下げにつながり、資金調達に支障が出かねない懸念がある」

*インタビューは1月28日に実施しました。

(中川泉 編集:石田仁志)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、捕虜交換完了後に和平案を提示する用意=外相

ワールド

トランプ氏、日鉄のUSスチール買収承認の意向 「計

ワールド

アングル:AIで信号サイクル最適化、ブエノスアイレ

ビジネス

アングル:グローバル企業、トランプ関税の痛み分散 
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非礼すぎる」行為の映像...「誰だって怒る」と批判の声
  • 2
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友情」のかたちとは?
  • 3
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンランドがトランプに浴びせた「冷や水」
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 6
    【クイズ】PCやスマホに不可欠...「リチウム」の埋蔵…
  • 7
    備蓄米を放出しても「コメの値段は下がらない」 国内…
  • 8
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 9
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワ…
  • 10
    トランプは日本を簡単な交渉相手だと思っているが...…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 3
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 7
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 8
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 9
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 10
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中