ニュース速報

ビジネス

焦点:介入でオフショア人民元への不信増大、先安観変わらず

2016年01月13日(水)17時31分

 1月13日、オフショア人民元市場は、5年前の創設時には中国の金融自由化の象徴ともてはやされたが、最近は通貨の統制回復に向けた戦場へと様変わりしている。写真は合肥市で昨年4月撮影(2016年 ロイター)

[香港 13日 ロイター] - オフショア人民元市場は、5年前の創設時には中国の金融自由化の象徴ともてはやされたが、最近は通貨の統制回復に向けた戦場へと様変わりしている。投資家は振り回され、将来性に懐疑的な見方が広がっている。

一般に「CNH」として知られるオフショア人民元をめぐっては、昨年8月の突然の元切り下げを受けて投資家心理が悪化。さらに、中国人民銀行(中央銀行)がここ数週間に講じた相場押し上げ策によって信頼感が一段と揺らぎ、中国の為替政策への不透明感が高まることになった。

オンショアとオフショア相場は、先週には2%以上の開きがあったが、人民銀行の介入などの結果、スプレッドは12日にほぼ解消した。

香港にある欧州系多国籍企業の財務担当者は「通貨価値や調達コストがこれほど急激に変動すると、ヘッジはほぼ不可能だ。人民元にまとまったエクスポージャーを持つ企業には頭の痛い問題」と述べた。

2010年に誕生したオフショア人民元市場は香港からシンガポール、台湾、ロンドンへと広がった。人民元は、中国国内の市場では当局による厳しい管理下に置かれているため、オフショアで市場実勢に沿った相場で取引できることは投資家に大きな魅力となっている。

オフショア市場は人民元の国際化にとって不可欠だ。中国政府は、資本勘定の開放を進め、2020年までに上海を世界金融ハブにするという目標を掲げており、世界全体の人民元建て預金残高は、2015年のピーク時には2兆元(約3000億ドル)近くまで拡大した。

<介入で広がる不信感>

ところが、中国人民銀行はここ数週間、投機の原因となっていたオフショアとオンショアの人民元相場の差を縮小するための措置を相次いで打ち出した。そのため、市場の信頼性をめぐる疑念が広がっている。

中国当局は、オフショアで営業している中国の銀行と外資系の銀行に対して、ドル購入の制限のほか、オフショア銀行に対するオンショア融資の停止を要請。さらに、国有銀行を通じた大規模な介入にも乗り出した。

介入で流動性が干上がり、翌日物の人民元調達コストが高騰。通常は10%を下回っているが、12日朝方には一時96%まで上昇した。

人民銀行は昨年9月、オフショア人民元市場に初めて介入した。しかし、今回の介入規模はそれをはるかに上回る。欧州系銀行のトレーダーの試算によると、人民銀行はこの1週間で100億─200億ドルのドル売り介入を実施したという。9月は10億─30億ドルだった。

東亜銀行(香港)のシニアマーケットアナリスト、ケニックス・ライ氏は「頻繁に介入すれば、人民銀行の人民元市場自由化への本気度やその政策の信頼性について、投資家の確信が揺らぐことになる。過度の介入は人民元の国際化にとってマイナス」との見方を示した。

大規模な介入にもかかわらず、人民元の先安観はなお強い。

1年物ノンデリバラブル・フォワード(NDF)が示唆する相場は1ドル=6.89元で、現在のスポットのオフショア相場から人民元が4.9%下落することになる。ゴールドマン・サックスは来年末時点の人民元の予想をこれまでの6.8元から7.3元へと大幅に修正した。

*見出しを修正しました。

(Saikat Chatterjee記者、Michelle Chen記者 翻訳:吉川彩 編集:橋本俊樹)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、捕虜交換完了後に和平案を提示する用意=外相

ワールド

トランプ氏、日鉄のUSスチール買収承認の意向 「計

ワールド

アングル:AIで信号サイクル最適化、ブエノスアイレ

ビジネス

アングル:グローバル企業、トランプ関税の痛み分散 
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非礼すぎる」行為の映像...「誰だって怒る」と批判の声
  • 2
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友情」のかたちとは?
  • 3
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンランドがトランプに浴びせた「冷や水」
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 6
    【クイズ】PCやスマホに不可欠...「リチウム」の埋蔵…
  • 7
    備蓄米を放出しても「コメの値段は下がらない」 国内…
  • 8
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 9
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワ…
  • 10
    トランプは日本を簡単な交渉相手だと思っているが...…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 3
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 7
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 8
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 9
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 10
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中