コラム

反共イデオロギーが日本政治をダメにする──八代弁護士『ひるおび!』発言が悪質な理由

2021年09月14日(火)15時43分

その是非は別として、およそ常識的な知性を持つものなら、現在の日本共産党が暴力革命を志向しているとは到底思えないだろう。それにもかかわらず公安調査庁が共産党を調査対象にしていることをもって公党の攻撃材料とするのは、人脈的には戦前の特高警察の流れを汲む公安調査庁の反共主義を無批判に受容しているのであり、極めてイデオロギー的な振る舞いと言わざるをえない。

共産党を攻撃するイデオロギー的な人々

この件で、八代弁護士を擁護して共産党の「危険性」を強調した人がいる。例えば日本維新の会の音喜多駿参院議員、数々の暴言で日本維新の会を離党した丸山穂高衆院議員、「さざ波」発言で内閣官房参与を辞任した高橋洋一などだ。いずれも日本維新の会の人脈に連なる面々だが、そもそも2016年の閣議決定も、日本維新の会の足立康史衆院議員の質問に対する答弁として出されたものだ。

日本共産党を支持する支持しないに関わりなく、維新の会を中心としたこうした動きは端的にいえば権威主義を利用した政敵に対する卑劣な嫌がらせであり、日本の政治の質を落とす振舞いだといえるだろう。

日本の政治を蝕む反共イデオロギー

今回の件だけではなく、日本全国に漠然と存在する反共イデオロギーは、日本の政治を歪めている。統一教会を母体とする勝共連合は、自民党を中心とする日本の保守政治家に影響力を持っている。9月12日には、安倍晋三前首相がドナルド・トランプ前アメリカ大統領らとともに、統一教会のオンラインイベントで演説を行った。

野党でも、野党第一党の立憲民主党と日本共産党は、現政権の膿を洗い出し、人権や福祉に関する政策を実現するという点では、少なくとも数年間は共同で政権を担える程度には一致している。小選挙区での協力も進んでいる。

しかし、立憲民主党の議員や支持団体には、こうした協力を否定する者も多い。野党を支持する者からはもちろん、野党を支持しない者の目から見ても、これは単純にイデオロギー的で非合理的な戦略的失敗に映るだろう。特に労働組合の連合はこの期に及んで共産党の排除を主張している。連合の中心勢力となっている旧同盟系組合は、かつて民社党という政党の支持母体であった。民社党は左右の全体主義に対抗することを標榜していたが、実質的には反共主義を突き詰めた結果、自民党より右と称されることになった。共産党との協力を否定して立憲民主党に合流しなかった国民民主党は急速に自民党への接近を強めているが、選挙戦略としても成功しているとは思えない。

こうしたイデオロギー的障害はありつつも野党の共闘は進んでおり、9月8日、立憲民主党、共産党、社民党、れいわの四党は衆院選での政策協定と選挙協力に合意した。八代弁護士の発言はこの野党共闘を受けてのものであり、総選挙まで間もない中、このようなデマによって政党間の関係に介入する行為は、極めて悪質と言わざるをえない。しかも謝罪の際にさらにデマを重ねるに至ってはなおさらだ。TBSおよび『ひるおび!』にはこの事態を重く受け止め、しかるべき措置を取ってほしいと思う。


プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スロバキアのフィツォ首相、銃撃で腹部負傷 政府は暗

ビジネス

米CPI、4月は前月比+0.3%・前年比+3.4%

ワールド

米大統領選、バイデン氏とトランプ氏の支持拮抗 第3

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 5

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story