コラム

メッカ巡礼を揺さぶる新型インフル

2009年07月22日(水)17時06分

 新型インフルエンザ(H1N1型)に対する不安が高まっている。とりわけ警戒感が高まっているのがイギリスだ。英保健省のリアム・ドナルドソン首席医務官は16日、H1N1型による死者は秋までに6万5000人に達する可能性があると予測した

 19日には新聞各紙が、イギリスの航空各社は感染の症状がみられる乗客の搭乗を拒否するかもしれないと報じた。英国内の死者数は今のところ29人に過ぎないが、新型インフルエンザの大流行は予想より早く到来しそうだ。
 
 今や「聖なる旅」も危険にさらされている。英メッカ巡礼協会の担当者らは21日、イスラム教徒に今年のメッカ巡礼の再考を促すため、以下の声明を発表した。


 イギリスの巡礼者はこれまでにも祝賀行事や宿泊施設、交通機関の混雑により高い感染リスクにさらされてきた。従って巡礼者は当局の指針を遵守し、ワクチンが入手可能になった場合は、巡礼出発の少なくとも2週間前までに予防接種を受けるべきである。


 この声明に先立ち、サウジアラビア政府は全渡航者に出発前の予防接種を勧告。さらに感染弱者である「妊婦、子供、慢性疾患者および高齢者」には今年の巡礼を控えるよう促した。

■イギリス発の巡礼者2万5000人

 他の中東・アフリカ諸国も同様の警告を出している。エジプトでは最近、サウジ旅行中に新型インフルエンザに感染した女性が死亡。国内初の死者が出たことを受けて、エジプト政府はサウジ同様の警告を出した。

 ラマダン(断食月)は8月下旬に始まるが、新型インフルエンザがメッカ巡礼を予定するイスラム教徒にどの程度影響を与えるかはまだ分からない。イギリスだけでも2万5000人が巡礼を計画しているとみられる。

 今のところエジプトの最高位の聖職者ら宗教指導者は、「全エジプト人にメッカ巡礼を禁止するファトワ(宗教令)を出すか否か」はWHO(世界保健機関)の指針を見て決めるとしている。

 WHOによれば、新型インフルエンザによるこれまでの全世界の死者は700人で、ウイルスが「前代未聞のスピード」で広がっているという。

 今年は予防接種に行列ができるのは間違いなさそうだ。

──レベッカ・フランケル
[米国東部時間2009年07月21日(火)17時12分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 22/7/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ・S&P最高値更新、オラクル株急

ワールド

米政権、金融当局刷新へ 規制負担軽減で成長促進=財

ワールド

トランプ氏、中国との協力と日本との同盟「両立可能」

ワールド

ゼレンスキー氏、米に新たな和平案提示 「領土問題な
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 5
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 8
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story