コラム

「国債バブル」はいつ崩壊するか

2009年08月20日(木)17時46分

 財務省が8月10日に発表した政府債務(国債や政府短期証券などの合計)は、6月末で約860兆円にのぼり、過去最高を更新した。これはGDP比で1.7倍と、OECD諸国で最大である。中南米やロシアでここまで政府債務が増えたら、国債が市場で消化できなくなって、長期金利が10%以上になるだろう。

 しかしこのような危機的状況になっても、日本の長期金利(10年物国債)は1.4%前後と低い。一つの原因は政策金利がほぼゼロになっていることだが、根本的な原因は日本経済が低迷して他に有利な投資対象がないことだ。国際的に比較しても、この金利は異常に低い。たとえば米国債(10年物)の金利は約3.5%である。金利が低すぎるということは国債の価格が高すぎるということだから、この現象は「国債バブル」と呼ばれてきた。

 このバブルは予想に反して崩壊することなく、10年以上にわたって続いてきた。その原因は「まさか日本政府が債務不履行に陥ることはないだろう」という日本国民の信頼だろう。これは国債の保有者の94%が日本人であることからもわかる。しかしそれは本当に維持可能だろうか。

 IMFの報告によれば、2014年には日本の政府債務はGDPの2.3倍を超え、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字を半減するだけでもGDPの14.3%の債務削減が必要だとしている。この削減率を消費税の税率(1%でGDPの0.5%)に換算すると、約29%引き上げることになる。増税と歳出削減を半分ずつとしても、消費税を20%にして歳出を4割カットしなければならない。消費税を2%上げただけで内閣の倒れた日本で、こんな荒っぽい財政改革が可能だろうか。

 おそらく唯一の選択肢は、通貨を増発してインフレを起こすことだろう。単純に計算すれば、14%のインフレを起こせば、実質的な債務はそれだけ減る。しかしそれは国債保有者の資産を目減りさせるので、インフレが始まったら彼らは国債を売り、その価格は暴落(金利は暴騰)するだろう。金融資産が売られて金などの実物資産への逃避が始まり、それがインフレを拡大してハイパーインフレになる可能性もある。日銀も、このような意図的なインフレには抵抗するだろう。

 しかし問題を先送りしていると、借金は雪ダルマ式に大きくなる。バブルの崩壊は巨大地震と同じで、いつ崩壊するかを予測することはできないが、崩壊することは確実だ。そして、いったん崩壊したら日本経済に破滅的な結果をもたらす。日本は、かつての不動産バブル崩壊の処理を誤って「失われた20年」の長期停滞をまねいたが、国債バブルの規模はそれに劣らない。自民党も民主党も、バラマキを競っている場合ではない。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

官僚時代は「米と対立ばかり」、訪米は隔世の感=斎藤

ビジネス

全国コアCPI、3月は+2.6% 年度内の2%割れ

ワールド

ロシアが政府職員の出国制限強化、機密漏洩を警戒=関

ビジネス

G20、米利下げ観測後退で債務巡る議論に緊急性=ブ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story