コラム

「エレキ少年」が「中二病」を経て「科学の根底を支える守護者」になるまで──産総研計量標準総合センター・臼田孝

2025年06月04日(水)17時40分

 計量標準の最前線は、たとえば「キログラム原器の50マイクログラムの変化が、キログラムを物理定数で再定義するきっかけとなった」と言われても、普段の生活で意識する質量とはかけ離れていて、ピンとこない人が多いと思います。でも、「日本での計量のすべては、産総研につながっている」と聞けば、計量標準の大切さや校正のありがたみも伝わりやすいですね。

臼田 メートル条約締結150周年という節目に一瞬バズったとしても、計量標準の重要性はすぐに忘れられちゃうんです。まあ、いつもそれをありがたがる必要はさらさらないし、それが普通っていう社会が一番いいと思います。けれど、「1キログラムがどこでも1キログラム」であることを支えている「どこかの誰か」がいるのだと、ふとしたきっかけに思い出していただけると嬉しいですね。

 本日はどうもありがとうございました。


インタビューを終えて

科学者にとって「過去の数値と比較すること」は研究の本質です。科学技術の発展で高精度に測れるようになると、過去には分からなかった事実が浮き彫りになることも多々あります。

一方、私たちの日常生活では、長さ、重さなどの基準値の小数点以下十数桁目が影響してくることはほとんどなく、基本単位の再定義がされたからといって今まで使えていた定規や体重計が使えなくなるわけでもありません。けれど臼田氏の話を聞いて、この「当たり前」こそが重要であり、「計量の番人」や科学者たちのたゆまぬ努力で維持されていることが分かりました。

また、計量は科学のみに依存するわけではありません。自然災害が多く、不景気も相まって何かと不安な時代でも、「2キログラム入りの米袋が、実際には1.9キログラムしか入っていなかったら」「災害時に平等に1人3リットル配給される水が、自分だけ1リットルしかもらえなかったら」などと心配をせずに「他人の計量」を信じられる日本は、治安がいい先進国なのだと実感しました。

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左から臼田氏、倉本直樹氏、堀泰明氏 筆者撮影

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プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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