コラム

「エレキ少年」が「中二病」を経て「科学の根底を支える守護者」になるまで──産総研計量標準総合センター・臼田孝

2025年06月04日(水)17時40分

 計量の未来、今後の展望についてはどのように思い描いていらっしゃいますか。

臼田 「測るニーズ」というのはどんどん増えていきますし、精度に対する要求というのもどんどん高まっていきます。我々は研究機関として日本の産業ニーズを支える、あるいは科学的な進歩をサポートするような技術を開発していかなきゃいけないというのがあります。

象徴的なものとして「秒の定義改定に日本が貢献できるか」というのがありますけれど、そういう画期的なものだけでなく、日々の測定に対する色々なニーズがありますよね。


 様々な環境で測りたいとか、速く測りたいなどですか?

臼田 そうですね。非常にダーティな環境でも正確に測りたいなど、世の中のあらゆる「測る」というニーズにも応えていくということです。

今、測るっていう行為自体が、どんどん身体感覚と離れていってると思うんです。理系学生でも自分が手を動かして目盛りを読むのではなく、ディスプレイの画面に出てきた数字を見たり、コピーしたりになっているでしょう? だから、今、自分が見ている情報の背後で、実際に何が起こっているのかっていうのをもっと考えてほしいな、とも思います。

 一般の人にとっても、定規やお店の秤など身の回りにあるすべての「測る道具」は、たどっていくと産総研で校正を受けた計量器に行き着くということが、安心の根拠になっているのですよね。

臼田 はい。校正サービスは我々の機関のもう1つのエッセンシャルな業務なんです。日々の商取引で、皆さんが疑問も持たずに安心して過ごせるようにするっていう重要な活動です。スーパーで買ってきた量り売りの肉を、「本当かしら」ってまたキッチンスケールで測り直さなければならない日常は困りますよね。

でも、実は信頼できない国というのは、世界にはまだいっぱいあります。ごまかさない日本の商習慣のレベルの高さだと思いますが、秤にずれがないことの背後に我々がいるという矜持もありますね。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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