コラム

「宇宙で同期と待ち合わせ」が実現! その舞台「ISS」を知る7つのキーワード...日本の貢献、日本人宇宙飛行士の活躍

2025年08月08日(金)22時25分

こうのとりは他国の補給機と比べて ①自動ドッキングではなくロボットアームによって手動でISSに結合する、②他国製は船内用物資のみを輸送するのに対し、船内用・船外用のどちらの物資も輸送できることが特長だった。

現在は「こうのとり」を引き継ぎ、輸送能力を上げ、ユーザーフレンドリーな機能を強化した新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」が開発され、25年度内にもH3ロケットによって打ち上げられる予定だ。


HTV-Xは「こうのとり」よりも多くの与圧カーゴ(大気のある密閉スペース)を搭載でき、HTV-X本体が軽量化されたため、より重い物資を運べるようになる。加えて、電源が必要な荷物にも対応可能となり、冷凍庫で低温を保つ必要のあるような実験サンプルも運べるという。

また、貨物の最後の搭載は「こうのとり」の打ち上げ80時間前から24時間前に大幅に改善され、貨物受付時間が延長されるとともに生鮮食料品や鮮度が重要な実験サンプルを搭載できるようになるという。

ISSとのドッキングは「こうのとり」と同じく、宇宙飛行士がロボットアームを使って手動で把持して結合するが、将来のミッションを見越して自動ドッキングの検証も行う予定だ。

油井さんは、15年の初回のISS滞在中にロボットアーム操作して、「こうのとり5号機」とISSを結合させた経験がある。今回の滞在中にHTV-Xが初めてISSに来訪する可能性があることについて、搭乗前の記者会見で「こう言うと大西さんが焼いちゃうかもしれないが、HTV-Xが来るのが今回のミッションで一番楽しみなこと。到着したらロボットアームを使って素早く優しくキャッチしたい」と語った。

5.大西さんから油井さんへの宇宙でのバトンタッチ

4日に行われた引継式及び共同記者会見で、大西さんは最も大きな経験として「約3カ月間、ISSの船長を務めたこと」を挙げ、「この大役はJAXAの先輩宇宙飛行士たちが築き上げてきた信頼や、『きぼう』日本実験棟の運用、HTV(こうのとり)による物資補給といった多大な貢献の結果だ。その上に、少しでも自分が信頼を積み重ねられればという思いで船長を務めてきた」と話した。

その後、大西さんが自分の掛けていたタスキを渡すと、油井さんは「重いですね。重力はないけど重いです」と受け取り、「大西さんが素晴らしい任務を果たしてくれたからこそ、その仕事を引き継ぐことの重さを感じる」と語った。

さらに「このタスキには、日本がこれまで積み上げてきた有人宇宙開発の歴史、宇宙開発に携わってきた方々の期待、そして応援してくれた方々の思いが詰まっていると感じている。長期滞在では、大西さんの良い面を受け継ぎつつ、自身の良い点も出しながら仕事を進めていきたい。日本の皆さんに明るい話題をたくさん届けたい」と続けた。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ロ首脳、15日にアラスカで会談 ウクライナ戦争終

ビジネス

トランプ大統領、内国歳入庁長官を解任 代行はベセン

ビジネス

アングル:米関税50%の衝撃、インド衣料業界が迫ら

ワールド

プーチン氏、中印首脳らと相次ぎ電話会談 米特使との
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 2
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何か?...「うつ病」との関係から予防策まで
  • 3
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トップ5に入っている国はどこ?
  • 4
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 7
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中…
  • 8
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 9
    今を時めく「韓国エンタメ」、その未来は実は暗い...…
  • 10
    「ホラー映画かと...」父親のアレを顔に塗って寝てし…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 9
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story