最新記事
米中関係

中国「レアアース輸出管理強化」の背景には何があるのか?その効果と企業が取れる対策とは

2023年11月14日(火)12時31分
アーディル・ブラー
レアアース外交

中国は世界最大のレアアース供給国(江蘇省の港に運搬されるレアアース) REUTERS

<突如、「レアアース外交」を再発動した中国。だが過去には日本の自動車メーカーが対抗策を取り、中国の輸出規制が中国に裏目に出たこともあった>

中国政府がレアアース(希土類)などの輸出管理強化を打ち出した。この措置により、アメリカ企業はもしかすると、電気自動車(EV)やミサイルを製造するために欠かせない重要資源の確保に苦労することになるかもしれない。

中国商務省は11月7日、輸出業者に対し、レアアースの輸出先などを報告するよう義務付けると発表した。ただし、現段階では輸出数量制限は導入されていない(どの種類のレアアースが報告義務の対象となるかは明らかにされていない)。この措置は、今後少なくとも2年間継続する。

今回の中国政府の措置は、アメリカ政府が先端半導体などに関して対中規制を強めていることへの対抗措置との見方が強い。要するに、中国政府がその気になれば、アメリカの特定の産業を狙い撃ちにしてダメージを与えられるのだというメッセージを発することを意図した動きとみられているのだ。

輸出管理強化のタイミングにも意味がありそうだ。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は11月15日開幕のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席するために米サンフランシスコを訪問し、その際にバイデン米大統領と会談することになっているのだ。

レアアースは、電気自動車や太陽光発電パネル、兵器製造で用いる半導体など、最先端技術に欠かせない17種類の鉱物資源の総称だ。

その最大の供給元が中国なのである。国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、中国は、レアアースの採掘で世界の60%、加工で87%という圧倒的なシェアを占めている。

中国政府はこの夏にも、先端半導体の製造に不可欠な2種類のレアアース(ガリウムとゲルマニウム)の輸出規制を導入している。この措置は、アメリカ政府による対中規制への対抗措置なのだろう。

しかし、中国がレアアースの輸出規制によってアメリカに打撃を与えられるかどうかには懐疑的な見方をする専門家も多い。レアアースの輸出規制は、むしろ中国の国内産業の首を絞める結果を招きかねないと考えられているのだ。

中国はこれまでも、レアアースの圧倒的なシェアを国際政治の武器に使っていると批判されてきた。

2010年には、東シナ海の尖閣諸島の領有権問題をめぐり日本との緊張が高まったとき、日本へのレアアース輸出を停止した。

この中国の措置に対しては、日本だけでなく欧米諸国の間でも懸念が高まったが、14年にはWTO(世界貿易機関)が中国の輸出禁止措置をルール違反と認定し、中国政府は最終的にこの措置を解除した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中