最新記事
ブータン

中国との国境紛争でブータンが譲歩? インドは黙っていられない

Why India is worried about the China-Bhutan border

2023年11月2日(木)18時00分
アーディル・ブラール

英国王チャールズ3世の戴冠式に出席したブータンのワンチュク国王とペマ王妃(5月6日)REUTERS/Henry Nicholls/

<中国とブータンが長年続けてきた領有権争いが力づくで決着しつつある。軍事的、経済的にブータンとつながりの深いインドは警戒の目を向けている>

【写真特集】「幸福の国」ブータンの2つの顔

ヒマラヤの小国ブータンが、隣国・中国との関係正常化に向けて動きつつあり、反対隣のインドが懸念を募らせている。中国は近年、ブータンとの領有権交渉で優位に立ち、ブータンを交渉のテーブルに引き寄せている。

中国とブータンは約400キロの国境を接しているが、正式な外交関係は結んでいない。この状況が変われば、周辺地域の安全保障に重大な影響が及ぶ可能性がある。

10月23日から24日にかけて、タンディ・ドルジ外相率いるブータンの代表団は、中国外交部の孫衛東副部長と第25回国境画定協議を行った。

その後、中国とブータンは共同声明を発表。「中国政府とブータン政府との間の国境画定および境界設定に関する合同技術グループの機能に関する協力協定に署名した」と述べた。

無味乾燥な文言だが、それがとてつもなく大きな意味を持つ可能性がある。ブータンの外相は今回、中国の韓正・国家副主席とも会談を行った。かつて中国共産党の政治局常務委員も務めた韓正とブータン外相との会談は、異例のことだ。

これは中国とブータンの外交関係正常化に向けた協議が加速していることを示しており、大きな意味を持つ。そしてこの展開は、中国との関係が悪化しつつあるインドを大いに不安にさせることだろう。

「平和的」に領有権問題を解決

ブータンと中国は2021年10月、何十年も前から続く領有権問題の解決に向けた「3段階の工程」に関する覚書に署名した。ドルジは先日ブータンのメディアに対し、2022年だけでもブータンと中国の間で4回の専門家会議が開かれたと語った。その前の34年間で開かれた専門家会議は、合わせて7回のみだった。

もし中国とブータンが国境をめぐる争いを交渉で解決し、正式に外交関係を結べば、中国政府はこれを「中国が平和的な交渉を通じて紛争を解決できる」ことを示す成果として世界にアピールするだろう。中国に批判的な者たちは、台湾や南シナ海の問題について、習近平国家主席率いる中国の指導部が外交面でますます攻撃的なアプローチを行っていると主張している。

ブータン(首都ティンプー)は立憲君主制を採用しており、ヒマラヤに残る最後の王国だ。インドは1949年に結んだ条約(その後2007年に改定)の下、ブータンとは「特殊な関係」にあり、ブータンの安全保障を担保する立場にあった。

中国社会科学院アジア太平洋・グローバル戦略研究院のアジア専門家である孫西輝は、ブータンに対するインドの影響力は「覇権的」だと説明する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米セントルイス連銀新総裁、利下げに慎重 「インフレ

ビジネス

FRB、年内利下げ開始適切 インフレ低下の兆し=ク

ビジネス

エヌビディア時価総額3.336兆ドル、世界トップ 

ビジネス

米鉱工業生産、5月製造業は0.9%上昇 予想上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サウジの矜持
特集:サウジの矜持
2024年6月25日号(6/18発売)

脱石油を目指す中東の雄サウジアラビア。米中ロを手玉に取る王国が描く「次の世界」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 3

    えぐれた滑走路に見る、ロシア空軍基地の被害規模...ウクライナがドローン「少なくとも70機」で集中攻撃【衛星画像】

  • 4

    800年の眠りから覚めた火山噴火のすさまじい映像──ア…

  • 5

    ルイ王子の「くねくねダンス」にシャーロット王女が…

  • 6

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 7

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 8

    中国不動産投資は「さらに落ち込む」...前年比10.1%…

  • 9

    中国「浮かぶ原子炉」が南シナ海で波紋を呼ぶ...中国…

  • 10

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 10

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中