国家転覆を狙う「加速主義者」の標的は「電力インフラ」──未解決事件が相次ぐアメリカ

PROTECTING THE GRID

2023年2月16日(木)15時45分
トム・オコナー(米国版シニアライター)、ナビード・ジャマリ(米国版記者)

アメリカの致命的な欠点とは

電力会社は、電力網に障害が生じたとき他社との連携を強化する努力もしてきた。相互支援戦略に基づき、全米の技術者ネットワークを活用して復旧に当たろうというのだ。ただ、そこで想定されているのは、フロリダやテキサスやプエルトリコなどを定期的に襲う自然災害だ。

電力会社は、広域障害に対処するために新しいツールも活用している。例えば、電力網の重要部分がダウンして、外部電源なしで発電を再開しなければならない「ブラックスタート」に備えて、安全な通信システムや、さもなければ暗闇の中で作業しなければならない作業員に光を与える大容量バッテリー、そして人工知能(AI)を使った原因特定と意思決定支援システムを導入してきた。

とはいえ、いざというときに、これらの新技術がどのくらい役に立つかは分からない。停電が何週間にも及ぶ大災害のとき、「電力供給を再開するには、米本土がこれまでに経験した障害よりも、はるかに長い時間がかかるだろう」とシュナーは語る。

「最短でも数週間かかるかもしれない。テロで重要設備が大きなダメージを受けた場合はなおさらだ」

電力会社がどんなに最悪の事態に備えた予防策や対応策を強化しても、実際に電力網が大がかりな攻撃を受けたとき対処できるのか、専門家は懐疑的だ。脅威の大きさに対して、物理的セキュリティーを確保するための投資は「控えめ」だったと、レジリエント社会財団のトーマス・ポピク会長兼理事長は語る。

アメリカの州間高速道路には、「近隣住民への騒音対策のためだけに、何キロにもわたりコンクリートの遮音壁が設置されている。変電所の周囲にコンクリート壁を設置することに同じだけの資源が投じられれば、私たちもずっと安心できるだろう」と、ポピクは語る。

特に心配なのは、アメリカをはじめとする民主主義国は、災害が起きてからでないと動かない「致命的な傾向があることだ」と、ポピクは言う。

「大規模な攻撃が起きなければ、政策立案者や規制当局者の注意を喚起できないなら、アメリカに2度目のチャンスはないかもしれない」ポピクは悲痛な表情で言う。

「最初の本当に大きな攻撃が、最後の攻撃になるかもしれない。アメリカはそれでおしまいなのだから」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、8月は前月比+0.5% 予想上回る

ワールド

韓国、対米自動車関税の早期解決目指す 「日韓の違い

ビジネス

iPhone17、中国で好発進 北京旗艦店に数百人

ワールド

高市氏、党総裁選で公約「責任ある積極財政」 対日投
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中