最新記事

東南アジア

「加盟国に決断求める」シンガポール外相 ミャンマー問題で手詰まりのASEAN

2022年11月3日(木)16時45分
大塚智彦

特別外相会議終了後、インドネシアのルトノ・マルスディ外相は記者会見で「ミャンマーの状況は進展がないどころか悪化している」との認識を示し、ASEANとして何ら有効は打開策を見いだせないことへの焦燥感を表した。

ただ特別外相会議ではミャンマー軍政に対して「5項目の合意」の完全履行に対して期限を設ける必要性を確認した。とはいえ、この期限に関しては外相会議は明確にしておらず、首脳会議に決定を委ねる形となった。

議長国カンボジアの融和姿勢がネックに

これまで何度も指摘されたことだが、ASEAN内部ではミャンマー軍政の後ろ盾となっている中国と親しいカンボジアやラオス、ベトナムなどがミャンマー軍政に融和的姿勢を示し、ASEANが一致してミャンマーへの強硬姿勢をとれないネックとなっている。

特に今年のASEAN議長国であるカンボジアのフンセン首相やASEAN特使に任命されたプラク・ソコン外相は複数回に渡ってミャンマーを訪問し、ミン・アウン・フライン国軍司令官など軍政幹部と直接会談して「5項目の合意」の履行を迫ったが、軍政の頑なな拒絶の姿勢を崩すことはできなかった。

それにも関わらすカンボジアは5月に自国で開催したASEAN国防相会議にミャンマー軍政代表を招待し、軍政代表が「重要な会議に招待されたことに感謝する」などと述べる事態になった。

こうした議長国カンボジアの「全加盟国参加での対話を通じた打開策を探る」との姿勢に基づく「スタンドプレー」に対してマレーシアやシンガポール、インドネシアなどは「煮え湯」を飲まされてきた。

今回シンガポール外相が「重大な決断の時」として「今後2週間に何が起きるかその動きに注視する」と述べた背景には、現在各国外務当局を中心した準備交渉の成果が11月8日から予定されるASEAN首脳会議及び関連会議で主要議題となることが見込まれている事情がある。

その首脳会議でシンガポールやマレーシア、インドネシアなどが、ASEANのミャンマー問題に対する大きな転換を期待していることをシンガポール外相が代弁したとの見方が有力視されており、ASEAN首脳会議での議論が注目されている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、レバノン国内で標的拡大 ヒズボラも攻撃

ビジネス

中国自動車輸出、3月73.7%増 国内販売は6カ月

ビジネス

米事業の上場タイミング、あくまで価値に基づいて判断

ワールド

米イラン停戦合意、先行き非常に不透明=小林自民政調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 3
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 4
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 5
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 6
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 7
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 8
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 9
    キッチンスポンジ使用の思いがけない環境負荷...マイ…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 10
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中