最新記事

ミャンマー

プーチン政権下のロシアに酷似? ミャンマー、メディア統制強化で進む虚偽報道

2022年10月29日(土)21時36分
大塚智彦

兵士や警察官とその家族、軍政が任命した自治体首長や職員などは国営メディアと主に接しているが、インターネットのSNSなどを通じて実状に関する情報はある程度得ているとされる。

その証拠という訳ではないが、兵士や警察官が職場を離脱して国境を越えて隣国インドに逃避したり、PDF側に寝返ったりする事例が何件も報道されている。軍や警察を離脱した兵士や警察官は家族や親族への弾圧を恐れて顔にモザイクをかけ、実名や所属部隊を隠した状態で独立系メディアなどに登場している。

このような独立系メディアの報道に対して軍政側は「顔も出さず実名もないのは反軍政側のプロパガンダである証拠である」と反論している。

ロシア国内の状況に酷似

こうしたミャンマーの状況はウクライナに軍事侵攻したロシア国内の状況にある意味で似ている、ともいえるだろう。

ロシア国民はプーチン政権寄りのメディア報道によりウクライナで起きている戦闘や人権侵害の状況、ロシア軍兵士の犠牲などに関する情報へのアクセスを厳しく制限されており、実状は知らされていない。

とはいえインターネットのSNS上にあふれる実際の戦闘状況を伝える情報にはある程度触れることは可能で、若者を中心にプーチン政権への反感が高まり、国境を越えて隣国への脱出も続いているともいわれている。

ロシアの場合はウクライナという外国との戦闘であり、ミャンマーの軍と抵抗勢力という「内戦状態」とは単純に比較できないが、ロシアのウクライナに対する、そしてミャンマー軍政による一般市民への暴行、空爆、レイプそして虐殺という重大な人権侵害が起きている事態は同じで、国際社会による対応が喫緊の課題となっている。

ロシアの場合は国連、欧米などの各国による制裁、ウクライナへの経済支援、軍事支援などであり、ミャンマーのケースでは、東南アジア諸国連合(ASEAN)や日本などの関係国そして国連とその枠組みと多少の違いは存在する。

しかしロシアのプーチン政権に対してもミャンマーのミン・アウン・フライン国軍司令官が率いる軍政に対しても、何らかの問題解決に向けた筋道を模索し続けなくてはならないことは変わらない。ウクライナでもミャンマーでも犠牲となっている多くの女性や子供たちといった非戦闘員の命を一人でも多く救うことが緊急の課題となっているからだ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国、曺国元法相らに恩赦

ワールド

豪もパレスチナ国家承認へ、9月国連総会で イスラエ

ビジネス

中国に米国産大豆購入拡大を要望、トランプ氏「早急に

ワールド

イスラエル、アルジャジーラ記者を殺害 ハマスのリー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客を30分間も足止めした「予想外の犯人」にネット騒然
  • 2
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入する切実な理由
  • 3
    なぜ「あなたの筋トレ」は伸び悩んでいるのか?...筋肉は「光る電球」だった
  • 4
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中…
  • 7
    伝説的バンドKISSのジーン・シモンズ...75歳の彼の意…
  • 8
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 9
    60代、70代でも性欲は衰えない!高齢者の性行為が長…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 8
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 9
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 10
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中