最新記事

中国

茂木外相は王毅外相に、本当は何と言ったのか?

2021年4月6日(火)16時45分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

ずいぶんと友好的で日中友好ムード満載ではないか。

アメリカが関心を寄せる日本の「対中強硬」の本気度

先般、アメリカの国営放送である VOA(Voice of America)から取材を受け、日本の「対中強硬の本気度」に関して聞かれた。本気度も何も、日本の政権与党には極端な親中派の二階幹事長という強烈な力を持つ「ボス」がいて、基本的に日中友好路線からはみ出すことは許されないと回答した。安倍前内閣も菅内閣も同じように、この「強烈なボス」のコントロール下にあるので、どんなに表面上、アメリカの言うことを仕方なく聞いたとしても、本気で中国に強硬な態度で立ち向かっていく気など微塵もない。

アメリカ側に以下のグラフを見せたら「もう、言葉が出ない」と驚いていた。

endo20210406153101.jpg
中国商務部データを筆者が編集したもの

これは天安門事件後の経済封鎖を日本が解除して天皇訪中(1992年10月)まで実現させたときの中国が受けた外資の支援と対中投資企業数の変動を表したものである。2020年までの中国商務部のデータ(2019年までの統計)と2021年に新たに単独に出た2020年のデータを合わせて筆者が新たに作成したものだ(出典は拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』)。

明らかに1992年末から1993年にかけて、まるで特異点のようなピークがあるのが見て取れる。

二階幹事長が圧倒的力を持つ現在の政権与党においては、対中姿勢は1992年の時と何ら変わりはない。それを見て取ったからこそ、中国は今年2月から海警法を実施し始めたのだ。それは1992年の領海法制定の時と日本の対中姿勢が同じであることを見透かされているからである。

菅総理の訪米では、ウイグルの人権侵害に対して日本が欧米と同じような対中制裁の枠内に入ってくるか否か、香港問題に関して日本が「遺憾」という言葉だけでなく実際行動に出るか否かなどが問われる。

海警法に関しても日本が最も差し迫った脅威にさらされているにもかかわらず他人ごとのように「遺憾である」という言葉だけで済ますのか、それとも習近平国賓来日拒否は言うに及ばず、北京五輪ボイコットのような「実際の行動に出られるか否か」が問われるのである。

日本国内で適当にウヤムヤにしながら逃げていくという文化はアメリカにはない。

今般王毅外相が日中外相電話会談を申し出てきたのは、16日に行われることになっている日米首脳会談で日本がどこまで「アメリカ寄りになるのか」に関して牽制するためであることは明らかだ。

菅首相の対応に注目したい。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、零細事業者への関税適用免除を否定 大

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント米財務長官との間で協議 

ワールド

トランプ米大統領、2日に26年度予算公表=ホワイト

ビジネス

米シティ、ライトハイザー元通商代表をシニアアドバイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中