最新記事

海洋生物

イルカがクジラの子どもを育てる様子が世界で初めてとらえられる

2019年8月5日(月)17時00分
松岡由希子

バンドウイルカの母親のそばをついてまわるカズハゴンドウ Pamela Carzon-GEMM de Polynesie

<バンドウイルカの母親がカズハゴンドウの子どもを3年にわたって養育する珍しい事例が確認された......>

野生のバンドウイルカの母親が、分類学上、種も属も異なるクジラ目カズハゴンドウの子どもの"里親"となり、およそ3年にわたって養育する──。このような非常に珍しい事例が、世界で初めて、南太平洋東部ポリネシアで確認された。

生後一ヶ月未満の見慣れない子どもに遭遇

ポリネシア海洋哺乳類研究会(GEMM)では、2009年以降、仏領トゥアモトゥ諸島のランギロア環礁で生息する30頭のバンドウイルカの群れについて縦断調査を実施している。学術雑誌「エソロジー」に掲載された研究論文によると、研究チームは、2014年11月、この調査の一環で、バンドウイルカの母子と行動をともにする、生後一ヶ月未満の見慣れない子どもに遭遇。

バンドウイルカはずんぐりとした体型で、上下の吻が大きく突出しているのが特徴だが、この子どもはほっそりとしており、吻も小さかったことなどから、カズハゴンドウであると特定された。その後も、2015年4月から10月にかけて11回、バンドウイルカの母子とカズハゴンドウが一家で生活する姿がとらえられている。

カズハゴンドウは、バンドウイルカの母親のそばをついてまわり、ときには、母親からの注目を惹こうと、バンドウイルカの子どもを押しのける仕草もみせた。また、バンドウイルカの母親がカズハゴンドウを献身的に世話する様子も確認されている。

バンドウイルカの母親とカズハゴンドウは、バンドウイルカの子どもが姿を消した2016年4月以降も行動をともにしていた。その様子は、2017年8月までの間、24回確認されている。カズハゴンドウは、バンドウイルカの母親のそばで生活しながらも、群れにいる他のバンドウイルカとともに波乗りをしたり、波の中に飛び込んだり、他の雄のバンドウイルカたちと定期的に交流をはかるといった行動もとっていた。やがて、カズハゴンドウは、2018年4月頃、バンドウイルカの母親から"親離れ"し、独立して生活するようになったという。

属も種も異なる孤児を母親が養育した事例は珍しい

研究論文では、バンドウイルカの母親がカズハゴンドウを養育した要因として、母親の性格や育児経験の浅さを挙げているほか、カズハゴンドウが母親との関係を積極的に構築し、これを維持したことが、奏功したのではないかと考察している。

野生動物が血のつながりのない子どもを育てることは珍しい。属も種も異なる孤児を母親が養育した事例を学術的に示したものとしては、この研究論文のほか、「霊長目コモンマーモセットの子どもを野生のオマキザルが養育した」という2006年の研究論文のみにとどまっている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

シンガポール航空機、乱気流で緊急着陸 乗客1人死亡

ビジネス

アストラゼネカ、30年までに売上高800億ドル 2

ビジネス

正のインフレ率での賃金・物価上昇、政策余地広がる=

ビジネス

IMF、英国の総選挙前減税に警鐘 成長予想は引き上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル写真」が拡散、高校生ばなれした「美しさ」だと話題に

  • 4

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 5

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の…

  • 6

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中