最新記事

ヨーロッパ経済

トランプの貿易戦争、欧州にも火の手? 自動車など「脆弱性」浮き彫り

2019年5月17日(金)12時00分

5月14日、欧州の上場企業は今年、米国で計1兆2000億ユーロ(1兆3000億ドル)もの売上高を計上する見通しだ。写真はフィアット・クライスラーのカナダ・オンタリオ州にある組立工場。2018年撮影(2019年 ロイター/Rebecca Cook)

欧州の上場企業は今年、米国で計1兆2000億ユーロ(1兆3000億ドル)もの売上高を計上する見通しだ。世界的な貿易摩擦の高まりや企業利益と経済成長の鈍化を考えると、こうした欧州企業の立ち位置がいかに危険かがはっきりと分かる。

アナリストや投資家の見立てでは、売上高ベースで判断すれば欧州と米国の貿易摩擦が激しくなった場合、米国企業よりも欧州企業の方が打撃が大きいという。

トランプ米大統領は18日までに輸入自動車・自動車部品に追加関税を課すかどうかを決める予定だ。中国との対立再燃に関心を向けることで、自動車関税は先送りするかもしれないが、もしかすると中国と欧州を相手に2正面で貿易戦争を仕掛ける可能性もある。いずれにせよ自動車関税が導入されれば、欧州が誇る自動車セクターにとっては新たに重大な脅威がもたらされかねない。

欧州では景気が減速し、イタリアなど財政赤字に苦しむ国もあるため、米国との貿易戦争が勃発すると主要企業が受ける痛手はかなり深刻化し、中国がこれまで示してきたような耐久力を欧州が発揮するのは難しいのではないだろうか。

ピクテ・ウェルス・マネジメントの資産配分責任者クリストフ・ドネー氏は「貿易問題では中国よりも欧州を巡る懸念の方がずっと大きい」と話した。

アムンディ・アセット・マネジメントによると、MSCI欧州株指数構成企業の平均的な米国売上高は約20%で、MSCI米国株指数構成企業の欧州売上高は平均14%程度だ。

逆風受ける自動車

トランプ氏の保護主義的政策がマイナスになる典型的なセクターとしては、特に欧州の自動車メーカーが挙げられる。

ムーディーズの分析では、25%の自動車関税が発動されるとドイツの国内総生産(GDP)と輸出収入はそれぞれ0.2-0.3%ポイント下振れる。ドイツの国別自動車輸出で米国は13%を占めるという。

売上高を尺度にすれば、米国で453億ドルの収入を稼いでいるフィアット・クライスラーの危険度は大きい。もっともフィアットをはじめとする多くの欧州勢は、米国に生産拠点を持っているので関税の影響を幾分和らげられる。

UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの英投資事務所副責任者キャロライン・シモンズ氏は、欧米の貿易摩擦がこれ以上ひどくなるとハイテク、エネルギー、工業などが最も打撃を受けると予想した。

これらのセクターの欧州企業の米国売上高比率は平均で10-20%。UBSは、ユーロ圏において自動車を含む一般消費財セクターをアンダーウエートにしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中