最新記事

米司法

トランプ「護衛官」、バー司法長官のロシア疑惑

So Many Conflicts, So Little Time

2019年4月26日(金)13時05分
クリスティナ・マザ

過去の職場や知人が疑惑とつながっているバー(写真中央)に専門家は「捜査を辞退すべき」と主張 Leah Millis-REUTERS

<ムラー特別検察官の捜査報告を過小評価したがるバー司法長官だが、実は彼自身にも疑惑の人物や業界との関係がある>

まあ見慣れた光景だが......。

ウィリアム・バー司法長官が米議会で集中砲火を浴びている。ロバート・ムラー特別検察官の提出したロシア疑惑に関する捜査報告書について、連邦議会宛ての書簡で露骨にドナルド・トランプ大統領を利する解釈を示したからだ。その後も議会証言で口を滑らせ、16年大統領選でFBIがトランプ陣営を「スパイ」していた可能性があると発言。これも民主党議員にかみつかれた。

それだけではない。そもそもバーがロシア疑惑の捜査に監督者として関わるのは不適切だと指摘する専門家もいる。

なぜか。以前にバーが働いていた事務所や会社の雇用主が、ロシア疑惑における複数の重要人物とつながっているからだ。そうであれば、バーも前任者のジェフ・セッションズ同様、この事案から身を引くべきだと論じる向きもある。

「重要なのは実際に利益の相反があったかどうかではない。利益の相反があるように見えるという事実だ」と言うのは、フォーダム大学法科大学院教授で司法の倫理に詳しいジェッド・シュガーマンだ。

バーは公表した自身の資産報告で、過去にロシアとつながりのある(またはその疑いがある)法律事務所や企業のために働いていたと認めている。ロシアと深いつながりのある持ち株会社から配当も受け取っていた。

これらの事実は、司法長官の指名承認公聴会ではさほど注目されなかった。当時は、バーが前年にロシア疑惑の捜査を批判する内容の法的意見を作成していたことや、ムラーの報告書を(恣意的に要約せず)そっくり議会に提供するかどうかが最大の争点だったからだ。

疑惑の会社の名は既に知られているが、そうした会社とバーの関係はまだ解明されていない。それでも利益相反の疑いがある限り、議会民主党は追及の手を緩めないだろう。

そうであれば「司法省ではなく、独立機関による調査が必要だ」と本誌に語ったのはジョージタウン大学法科大学院のマイケル・フリシュ。独立系の監視団体「政府監視計画」のスコット・エイミーも、「彼は何も違法なことはしていないが、過去にこれらの組織と関与していたのなら、(ロシア疑惑の捜査から)身を引かないのは不適切ではないか」と言う。

トランプJr.の電話の相手

本誌は司法省に再三コメントを求めたが、回答はなかった。仕方ないので、現時点で分かっている事実を整理しておく。

まず、バーはロシアと深いつながりのある会社ベクター・グループから配当金を受け取っていた。同社のハワード・ローバー社長は90年代にロシアを訪れた際、トランプを同伴させている(この訪問がモスクワのトランプ・タワー建設計画の発端になったとされる)。

シュガーマンによれば、ドナルド・トランプJr.はトランプ・タワーで(大統領選中の16年6月に)行われたトランプ陣営とロシア人弁護士との会談を準備するに当たり、ローバーに電話をしていたとされる。

「ローバーとロシアの縁は深い。モスクワにトランプ・タワーを建てる計画を支援していたともされる。もともとバーの判断力には問題があるが、これほどトランプに近く、ロシア疑惑とも近い会社と金銭的な関係を持っていたのはまずい」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

2回目の関税交渉「具体的に議論」、次回は5月中旬以

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米国の株高とハイテク好決

ビジネス

マイクロソフト、トランプ政権と争う法律事務所に変更

ワールド

全米でトランプ政権への抗議デモ、移民政策や富裕層優
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中