最新記事

中東政策

ゴラン高原の主権をイスラエルに認めると何が問題なのか

Trump Recognizes the Golan Heights as Israeli Territory

2019年3月22日(金)17時05分
ニコール・グッドカインド

ゴラン高原に立つイスラエル国旗のそばで遊ぶイスラエルの子供たち Ronen Zvulun-REUTERS

<トランプのツイートはロシアやイランを挑発し、中東情勢が一気に不安定化する危険を孕む>

ドナルド・トランプ米大統領は3月21日、イスラエルがシリアから奪って占領しているゴラン高原について、イスラエルの主権を認めるとツイッターで表明した。

それは、前日にイスラエルを訪問していたマイク・ポンペオ米国務長官が、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談した直後の表明だった。トランプは2017年12月にエルサレムをイスラエルの首都と認定し、2018年5月に米大使館をテルアビブからエルサレムに移転させるなど、これまでもイスラエル寄りの政策をとってきた。

「(イスラエルがゴラン高原を占領した1967年から)52年がたち、アメリカがゴラン高原におけるイスラエルの主権を全面的に認める時がきた。イスラエルと中東の安定にとって戦略上も安全保障上も極めて重要だ!」と、トランプは3月21日早朝にツイートした。

イスラエルの右派政党「リクード」の党首を務めるネタニヤフは今後、3件の汚職疑惑で起訴される可能性があり、4月9日のイスラエル総選挙で苦戦を強いられている。ネタニヤフは3月25~26日に訪米してホワイトハウスでトランプと首脳会談を行うことが、すでに発表されている。それに先立つトランプの承認表明には、ネタニヤフ再選を助ける意図がある。

オバマは会談を拒否

トランプと対照的なのがバラク・オバマ前米大統領だ。オバマは2015年3月、イスラエル総選挙の前にネタニヤフと首脳会談を行うのを拒否してこう言った。「アメリカが選挙介入や自国に有利な援護射撃を行っているなどと疑われないよう、首脳会談は選挙から十分に離す必要がある」

だがトランプは、親密な関係にあるネタニヤフへの援護射撃を憚らない姿勢を示した。たとえその対象が、長期にわたって激しい領有権争いが続いているゴラン高原だとしても。

ネタニヤフはこうツイートした。「イランがシリアを拠点にイスラエルの破壊を狙っている時に、トランプ大統領は果敢にも、ゴラン高原でのイスラエルの主権を認定してくれた」「ありがとう、トランプ大統領!」

ゴラン高原はシリア南西部に位置する約1200平方キロの土地。東に60キロ離れたシリアの首都ダマスカスやヨルダン川流域を見渡せるため、軍事戦略上重要な拠点。1967年の第3次中東戦争で、シリア領だったゴラン高原をイスラエルが占領。1981年に一方的に併合したが、アメリカを含む国際社会は現在までイスラエルの主権を認めてこなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科の社債権者、返済猶予延長承認し不履行回避 

ビジネス

ロシアの対中ガス輸出、今年は25%増 欧州市場の穴

ビジネス

ECB、必要なら再び行動の用意=スロバキア中銀総裁

ワールド

ロシア、ウクライナ全土掌握の野心否定 米情報機関の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中