最新記事

軍事衝突

インド高官の対パキスタン戦果発表はフェイク? 困惑のパキスタン住民

2019年3月3日(日)14時33分

インド空軍がパキスタンの武装勢力に対して26日未明に実施した空爆で、唯一確認された被害者のヌーラン・シャーさん(写真)は、なぜ空爆されたのか、いまだに理解できないと語る。パキスタンのジャバ村で撮影(2019年 ロイター/Asif Shahzad)

インド空軍がパキスタンの武装勢力に対して26日未明に実施した空爆で、唯一確認された被害者は、なぜ空爆されたのか、いまだに理解できないと語る。右目の上に傷を負った彼は、空爆の衝撃で泥レンガでできた自宅が揺れ、目を覚ましたという。

「テロリストを攻撃したかったというが、ここにどんなテロリストがいるというのか」と、62歳のヌーラン・シャーさんは話す。シャーさんは、パキスタンのカイバル・パクトゥンクワ州北東部の町、バラコットに近いジャバ村に暮らしている。

「私たちはここに暮らしている。私たちがテロリストだというのか」

インド側は、26日の空爆により、パキスタン国内のイスラム過激派ジェイシモハメドの主要訓練施設を破壊したと主張する。同組織は、両国が領有権を争うカシミール地方で14日発生した、インド治安部隊を乗せたバスを狙った自爆攻撃の犯行声明を出していた。自動車を使ったこの攻撃で、インド治安部隊の隊員44人が死亡した。

インドのビジェイ・ゴカレ外務次官は、今回の空爆により「非常に多くのジェイシモハメドのテロリストや教官、上級司令官、フェダイーンの訓練を受けていたジハード(聖戦)戦士を撲滅した」と明らかにした。フェダイーンとは、自爆任務を遂行するイスラム過激派の戦闘員を意味する。

別のインド政府高官も、約300人の武装勢力が殺害されたと記者団に語った。

しかし、インドの空軍少将は28日、そうした主張を撤回するようなコメントを行った。空爆による被害状況について聞かれると、犠牲者について詳細を語るのは「時期尚早」だと述べた。その上で、インド軍は空爆が武装勢力の拠点にダメージを与えた「かなり信頼できる証拠」があるとも語った。

パキスタン側は、空爆は主に森林地帯に落下し死傷者は出ておらず、失敗に終わったとして、インドが発表した推定死亡者数を一蹴した。

こうした両国の主張の違いが、5月までに実施されるインド総選挙で2期目を目指すモディ首相にとって、争点の1つになるかは不明だ。現時点では、野党が、政府や軍に対して空爆結果についてのさらなる証拠を求める兆しはほとんど見られない。

ジャバ村の森林地帯の斜面で、村民たちは爆撃でできた4つのくぼみや引き裂かれた松の木を指さした。だが、彼らを午前3時ごろに目覚めさせた一連の爆撃による影響は、他にはほとんど見られなかった。

「何もかも揺れた」と、同地域でピックアップトラックを運転する男性は語り、人的被害はなかったと述べた。「誰ひとり死んでいない。松の木が何本かだめになり伐採されただけ。カラスが1羽死んだ」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

円が対ドルで5円上昇、介入観測 神田財務官「ノーコ

ビジネス

神田財務官、為替介入観測に「いまはノーコメント」

ワールド

北朝鮮が米国批判、ウクライナへの長距離ミサイル供与

ワールド

北朝鮮、宇宙偵察能力強化任務「予定通り遂行」と表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中