最新記事

社会格差

イギリスの貧困世帯には、健康な食も人間関係も届かない

Hungry and Lonely

2018年12月18日(火)17時00分
メーガン・ブレイク

大型店が少ない地域では新鮮な野菜や果物も入手困難 BALONCICI/ISTOCKPHOTO

<大型店がなく食料入手が困難なイギリスの地域に、100万以上の貧困世帯が暮らしている>

現在、5人に1人が貧困状態で暮らすイギリス。彼らの住宅費を差し引いた世帯年収は、国民平均の60%以下だ。

貧困は、食料入手の問題に直接つながっている。シンクタンク「ソーシャルマーケット財団(SMF)」の調査では、食料が家計の重要な要素であることが改めて証明された。貧困家庭の3分の1が、家計のやりくりのためにより安く、より健康的でない食べ物を買っていた。

食料の調達では、地理的状況も大きな役割を果たす。手に入る食料の価格は、例えば住んでいる地域にどんな形態の店があるか、といった状況に左右される。ある慈善団体の調査によれば、コンビニは大型店と同じ商品をより高価格で売っている場合が多い。その上、小規模店は品ぞろえが少なく、プライベートブランドのお買い得商品を取り扱うことが少なく、果物や野菜の種類も限られている。

SMFの研究によれば、100万世帯以上の貧困層が「食料砂漠」と呼ばれる地域に住んでいる。食料砂漠の定義とは、VAT(付加価値税)登録店舗(課税対象売上高が規定額を超す規模の店)が住人5000~1万5000人当たりに2店舗以下の地域を指す。

こうした地域の範囲は郊外に比べて都市部のほうが狭くなる。貧困地区では、約1割近くが食料砂漠に該当したという。

この研究の重要な点は、貧困世帯が集中し、さらに食料の入手が比較的困難な地域を特定していることだ。食料砂漠では必然的に、食料入手に余計な時間やカネがかかる。

それに加え、入手した食料を手で持ち帰る必要があるから、運びやすくて本当に必要な物だけを選ぶことになる。重いジャガイモやかさばる野菜より、軽くて持ち運びやすい冷凍ピザをまとめ買い、となりがちだ。

食事はつながりも生む

飢餓や、健康な食事を取れない状態が健康に影響を与えることは明らかだが、「食料の手に入りにくさ」の影響はなかなか見えづらい。重要な点は、こうした食料砂漠地域で社会的つながりも失われていることだ。

イギリスでは今、孤独が問題化している。政府は今年1月、「孤独担当大臣」の職を新設した。孤独に陥る原因は人それぞれだが、食料を手に入れにくい状況も、社会的触れ合いの減少を助長していると考えられる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

金の強気相場続く、1オンス=2600ドルがピーク=

ワールド

米共和党対中強硬派、華為への販売全面阻止を要求 イ

ビジネス

世界のワイン需要、27年ぶり低水準 価格高騰で

ワールド

米国務省のアラビア語報道官が辞任、ガザ政策に反対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中