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ファーウェイ事件で幕を開けた米中5G覇権争い

Behind the Huawei Arrest

2018年12月20日(木)15時50分
山田敏弘(国際ジャーナリスト、マサチューセッツ工科大学〔MIT〕元安全保障フェロー)

もう一つ懸念されているのは、中国の法律だ。中国には、政府から命じられれば民間企業や人民は、治安当局に協力と支援をする義務があると定めた法律がある。欧米はファーウェイと中国政府は手を組んでいるとみる。

とにかく、サイバー空間のインフラを掌握すれば、有事の際にも中国は基地局やスマホの通信を遮断してしまえる。少なくとも、それを実行できるという脅威を世界に与えることが可能になり、それが軍事的な抑止力にもなり得る。アメリカはそうした事態を恐れている。

インフラを牛耳れば、これからさまざまなものがつながる世界で支配権を掌握できる――。80年代後半から「情報を支配する者は世界を制する」と「インフォメーション・ウォーフェア(情報戦争)」の重要性を見据えてきた中国には、5Gこそその集大成とも言えるだろう。

今回の逮捕で加速しているファーウェイつぶしは、世界に波紋を広げている。日本も来年9月には5Gの「プレサービス」がスタートし、20年には「商用サービス」が開始される予定だ。だが5G導入に向けて準備を始めていた通信大手各社は、中国製品の排除を決めている。特に協力関係が強かったソフトバンクも、ファーウェイ製品を今後使わないと発表した。

元欧米情報機関のサイバー担当者は今週、筆者の取材に「情報関係者の間では、中国政府がアメリカの通信機器メーカーを国内から締め出す報復措置を取る可能性を検討しているとみられている」と話した。

米中のサイバー覇権争いは5Gの到来を前に、泥沼化の様相を呈している。

<本誌2018年12月25日号掲載>


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