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「電車もバスも無料」の自治体が欧州で拡大中 なぜ無料に?

2018年11月5日(月)19時40分
松丸さとみ

一方で、例えばタリンの場合、2012年5月(運賃の無料化の7カ月前)から2016年5月の4年間で、市の人口は41万5000人から44万人に増加。明らかに、公共交通機関の無料が理由だとケブロウスキー博士は指摘している。タリンでは住民一人あたり平均で年間1600ユーロ(約20万円)の所得税を徴収しており、人口増加分2万5000人で計算すると、年間4000万ユーロ(約51億円)の増収となる。運賃の撤廃による減収額1220万(約16億円)を大きく上回り、利用客増加に伴う交通機関への新規設備投資分を除いても、タリン市は運賃を撤廃したことで年間1630万ユーロ(約21億円)の増収になったとケブロウスキー博士は説明する。

公共交通機関の無料化を求める人たちの意見には他にも、医療機関や教育、公園、道路、街灯、図書館などと同じように、交通機関は公益のものと捉える考えや、貧困層に使いやすくして社会的に公平な設備にするべきだという考えもあるようだ。

しかし当然ながら、どの都市にも適しているというわけではないようだ。例えばパリではイタルゴ市長が3月、空気汚染の軽減に向けた取り組みとして公共交通機関の無料化を検討する意向を明らかにした。しかし納税者の負担になるとして反対する声が大きい。

ロイター通信によるとパリの場合、運賃からの収入は30億ユーロ(約3865億円)で、年間運営予算(100億ユーロ、約1兆2885億円)の約3分の1を占めるため、無料にした際の経済的な影響は大きい。また、パリの公共交通機関はすでにヨーロッパ屈指の利用率の高さを誇っており、無料にした場合に増える利用客はこれまで自転車や徒歩で移動していた人だとの検証結果もあるため、車の利用を減らすには至らないと指摘する声も上がっている。

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