最新記事

欧州

現代ヨーロッパの礎「平和、人権、統合」の3つの価値観が崩壊する

Failure of Three Europes

2018年7月24日(火)19時00分
イワン・クラステフ(政治学者)

世界と自身の役割をめぐる考え方にもたらされたこの革命的な変化は、植民地解放の帰結という面が大きい。だが同時に、民主的な想像力が世界的に広まった結果でもある。「ポスト68年」のヨーロッパをひとことで定義するなら、それは「多様性の受容」だ。

だが今、この「ポスト68年」のヨーロッパも機能不全に陥っている。

ここ数十年でヨーロッパ各国を変容させた人口構造と社会の劇的な変化は、多数派(何でも持っているからこそ全てを恐れる人々)を脅かした。彼らは今、グローバル化に伴い激化する「人の移動」によって自分たちが敗者になりつつあることに恐怖を抱いている。

こうした多数派による政治の決定的な特徴は、投票行動に表れる。彼らは自分たちが少数派になり、自分たちの文化や生活様式が絶滅の危機に瀕する将来を想像しながら投票する。リベラル派がその恐怖心を無視したりばかにすることは、政治的に大きな過ちになる。民主政治においては、物事の「受け止め方」が唯一の重要な現実なのだ。

いま有権者の支持を得ている多くの政治運動は、多数派の権利、とりわけ文化的な権利を重視している。多数派は誰が政界に参加するか、自分たちの多数派文化を誰に守らせるかを決める権利は、自分たちにあると考えている。

時代を分けた移民危機

この点において15年の難民・移民危機は、ヨーロッパ市民のグローバル化に対する見方を変える転換点となった。

移民危機は「ポスト68年」のヨーロッパの終わりでもあり、「ポスト89年」のヨーロッパの一部概念の破綻でもあった。その証拠に私たちは今、かつてのコンセンサスが瓦解するのを目の当たりにしている。

移民危機はヨーロッパにとっての9.11だった。あのテロが世界を見るアメリカ人のレンズを変えたように、ヨーロッパの人々は移民危機を契機に、グローバル化に対する姿勢を決めるいくつかの前提を疑問視するようになった。

移民危機は、「ポスト89年」の統一ヨーロッパの現実を疑うことにもつながった。単にヨーロッパの西と東が移民に対する義務について全く異なる立場を取ったからだけではなく、民族や文化の多様性、人口移動について、2つのヨーロッパが存在することを明らかにしたからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ議会、540億ドル規模の企業減税可決 経済立

ワールド

ガザの援助拠点・支援隊列ルートで計798人殺害、国

ワールド

米中外相が対面で初会談、「建設的」とルビオ氏 解決

ビジネス

独VW、中国合弁工場閉鎖へ 生産すでに停止=独紙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中