最新記事

中台関係

ささやかれる台湾「武力統一」の現実味

2018年6月1日(金)17時00分
シャノン・ティエジー

「中国離れ」を図る台湾の蔡英文総統 Tyron Siu-REUTERS

<台湾に対する外交的包囲網を狭め続ける中国・習近平政権の次の一手は?>

それは蔡英文(ツァイ・インウェン)が台湾総統に就任する2カ月前のこと。16年3月、中国政府は突如、西アフリカの小国ガンビアとの国交回復を発表した。ガンビアは13年11月に台湾と断交していたが、中国は16年1月の台湾総統選で「独立志向」の蔡が勝利したのを見届けた上で、あえてガンビアとの国交回復に踏み切った。それが蔡英文への警告であることは明らかだった。

その後も、中国は台湾と国交のある小国を次々と切り崩してきた。サントメ・プリンシペ、パナマ、ドミニカ。そして5月24日にはブルキナファソが、新たに台湾との断交を発表。これで台湾を独立国として承認する国は18カ国のみとなった。

ブルキナファソは、直ちに中国との国交樹立に動くとは表明していない。しかし台湾の呉釗燮(ウー・シエチャオ)外交部長(外相)は、今回の決定の背後に中国がいることは「誰の目にも明らか」だと述べている。

台湾と外交関係を維持する諸国に圧力をかけるためなら、中国政府は手段を選ばない。台湾がWHO(世界保健機関)などの国際会議に出席できないよう、裏で手を回しているし、各国の航空会社に目的地表示を「台湾、中国」とするよう求めてもいる。一方で台湾周辺の軍事的緊張をあおり、台湾住民に本土への移住を促している。

死傷者ゼロの台湾攻略案

さらに憂慮すべき点は、こうした動きは最悪のシナリオの序章にすぎないとの見方が出始めていることだ。つまり、中国政府が台湾を併合し中国の統一という建国以来の夢を実現するため、ついに武力行使に出る可能性だ。

香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポストには、早ければ20年にも武力行使があり得るとの観測記事が載った。

もっと早い可能性もある。先ごろ中国のある研究者が出した本には、「中国が死傷者を1人も出さずに台湾を取り戻す」案として、「18年または19年の夏か秋」に電力インフラを短距離・中距離弾道ミサイルで攻撃し、台湾を攻略する作戦計画案が披露されている。

中国の台湾に対する姿勢が硬化した要因は3つある。まず、最高指導者の習近平(シー・チンピン)が民族主義的な志向を臆面もなく打ち出していることだ。50年までに中国を「社会主義強国」として完成させることを目標に掲げ、世界に向けて「中国の偉大な再生」を約束してみせた手前、自国の核心的利益に関して弱腰な姿勢を見せるわけにはいかない。そしてもちろん、台湾の併合は最大の核心的利益だ。それを実現すれば、習は中国共産党の歴史に名を刻める。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、ネット中立性規則が復活 平等なアクセス提供義務

ワールド

ガザ北部「飢餓が迫っている」、国連が支援物資の搬入

ビジネス

午前の日経平均は151円高、米株先物しっかりで反発

ワールド

英国民200万人がコロナ後遺症=国家統計局調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中